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NHK文芸選評への投稿作・9月(短歌)

9/14 短歌 選者:伊波真人先生 題:時計
終末時計十秒進みぬ終末が前提にある未来おもしろ
ブラウスの袖をゆらして風青し腕時計やはり買はずにおかむ
トーストの咀嚼をしつつ秒針をぢつと見をれば怖ろしく速し


「通知です」「朝です」きっと死ぬときも震えてくれるスマートウォッチ
東京都 文野やよいさん

ぞくりとしました。スマートウォッチを付けたままの死去は自然死ではなく突然死あるいは事故か事件に巻き込まれてが連想され、不穏な空気に満ちている。震えて「くれる」。擬人化されたスマートウォッチが主人の死去などどうでもと機械的に役目を告げているようで不気味で、言葉の選択がすごく巧い。考えてみれば、亡くなった後も残っているアカウントはこの世にごまんとあるんですよね。削除されない限りずっと。ただの放置アカウントじゃなくて…。



9/28 短歌 選者:梅内美華子先生 題:芋
この回は出しそびれました。


めんつゆとアイスコーヒー間違えて芋煮こさえたバレてないのか
東京都 佳丸さん

ぎゃはは! めっちゃ笑いました。めんつゆとアイスコーヒーを間違えても相手にバレなかった、つまり、作中主体は普段から味付けが無頓着な人で(ごめんなさい。作者本人とは限りませんよね)、それに相手が慣れてる or 味音痴でよかった。実際どうなんでしょう、芋煮って砂糖で甘くするから確かにわからない人にはわからないかもしれません。昔、短歌の仲間と「何を基準に選歌するか」って話になって「笑えたら取る」と答えました。だって、見ず知らずの人を笑わせる能力って技術がどうこうを超えて「作品に込めた波動が確実に受け手に届いている」って事なので。

どれだけの一期一会の人たちに発しただろう「芋の水割り」
東京都 椿泰文さん

飲み屋で知り合った、おそらくこの先もう会うことの無い人に自己紹介がてら「好きなのは芋の水割り」と告げた。作者は特定の誰かと行くよりも、ひとりで行って、飲み屋で知り合った人とその場限りの他愛ない話をするのがお好きなのでしょうか。なんかさ、大人の飲み方だあ。芋焼酎のロックでも湯割りでもなく水割りが好きというのが、私的にいかにも飲める人に感じました。焼酎のCMで流れてたらめっちゃかっこいい短歌。

種芋になつてしまつた初恋よきみと似てゐるひとばかり好き
千葉県 岡本恵さん

そうそう、そうなんだよ! と言いたくなりました。初恋の時期って幼稚園~小学校低学年かなと思うんですが、そんなちっちゃい時分に既に「好みの雛型」が確立されてしまうんですよ。なかなか怖ろしいことではありませんか?笑 で、雛型は種芋となって、生涯自分の中に残り続ける。途中でちがう感じの人に行ったりするけれどもなんか違うな~ってなって、結局種芋に戻っちゃう。ずっと自分の中心に残り続ける初恋の残り香として種芋になぞらえるのがユーモラスだし、巧い。



今月は俳句の回が2回とも延期になって短歌の2回しかなかったのでなんか寂しくて、数作品書かせていただきました。「時計」からも数首引きたかったのですが、後から探すのがちょっと大変で断念しました、すみません。