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この灯を絶やさぬために

たいして険しい道ではないけれど
だらしなく続くなだらかな一本道で
せわしげに頭を左右に振りながら
黙々と自転車を走らせている

かわり映えしない風景 時折の強い突風
白昼のしらけた家々の狭間を縫って
誰かに会いに行こうとしているでもなく
何処かに目的があるというでもなく

―おれは、夢の中にいるんじゃなかろうか。

胸の内では ほんのひとすみの領域で
チロチロとか細く燃え続けている想いがあって
この真っ赤なちいさな手が ほそい指が
叙情の弦をつま弾いて
せつない音楽を奏で続けている

―この灯を絶やさぬために、おれは生きている。

サドルに体をあずけ
ペダルをこぎ続けることを
おれ自身が選んだ
誰からの強要でもないそのいとなみを
なんとなく忘れてしまう時がある

何処で途切れるともわからぬ道だけど
へたな慰めでもなんでもなく
いま おれが出来る最上のことなのだと
迷いの虫に強くいいきかせる

この あまりにもいとおしい
赤い灯の旋律を絶やさぬために


Ⓒ2022 Akira Yoshiyama and AKIRA
詩集「この灯を絶やさぬために(詩学社1995年刊)」掲載作品

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