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スウィングは突然に

 小学6年生の春休み、つまり4月から中学生になるちょっと手前の3月のおはなし。

 どこの小学校でもあるのだろうか、学校内で放課後に宿題をしたり遊んだりする放課後事業教室に僕はよく行っていた。僕の地域では「いきいき」と呼ばれていた。限られた数十人だけで校庭や体育館を貸し切ってみんなで遊んだり、5・6年生が1・2年生の面倒を見たりと和気あいあいとしていてなかなかにいい感じだった。いきいきは普段はもちろん、学校のない長期休暇中も通えるようになっていた。

 涙と笑顔であふれた素敵な卒業式を終えた6年の3月の春休み、何を考えたか、僕ともうひとりの友達Aはいつものように「いきいき行こや」と意気投合した。いきいきの先生たちは「あんたらもう卒業生やろ、来られへんよ」と少し困りながらも、結局笑いながら許してくれた。

 元々僕とAはいきいきの先生たちととても仲が良かったので、これまでの延長のような感じで、それから中学校の入学式までの間ほぼ毎日通うことになった。もちろん6年生(というか卒業生)は僕とAだけ。

 こんなことはイレギュラー中のイレギュラーだっただろう。というか、本当は規則上ダメだったのかもしれないと、今になって思う。いきいきで何をするかといえば、室内・運動場・体育館で小学生らしくひたすら遊ぶだけだった。5年生以下の低学年の子たちと一緒に。だいたい春休み中に来るメンバーは固定されているので日々とても仲良くなっていた。

 そんな感じのいきいき生活・エキシビジョン編のあるとき、Aが「この映画みよう」とある映画を流そうとしていた。いきいきではテレビが1台とアニメや映画のビデオが何本かあって、好きに流してよいことになっていた。もちろん、みんなで譲りあいながら。

 そこでAが持っていたのは、映画『スウィングガールズ』。僕は正直、せっかく遊びに来てるのにテレビの前で2時間もおとなしく映画を見るなんて退屈だなあと全く気乗りがしなかったが、ついに映画が流れ始めた。

 あっという間の2時間だった。とてつもなくおもしろかった。12年間の立派な人生の中で味わったことのない充実感、高揚感があった。

 そして、私とAのスウィングな日々が始まった。

(つづく)



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