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読書レポート #12 『超一流の会話力』


この本を選んだ背景

会話に対する苦手意識の原因とその改善を期待したからである。

昔から会話、とりわけ日常で繰り広げられる目的のない話に関しては苦手意識を抱いており、目的のない話に対して普通の人はどう考えているのかについて知りたいと思うようになった。

他人と最低限の会話をしながら仕事をしてひとりで生きていくことは可能だと思う。しかしながら、他人ともっと仲良くなってより大きく楽しい人生を送りたいと最近考えるようになった。

今後の人生を豊かに過ごすため、普通の人が会話に対してどのように取り組んでいるかまとめた本を読み、自分の今後の人生に活かしたいと思っていくつかの本を調査した。

その中で目に留まったのが今回選んだ「超一流の会話力」である。
会話ノウハウの本はいくつかあったが、この本を選んだのは「コントスタイルで笑いを獲得することに長けたお笑い芸人が執筆した本」というのが決め手であった。

執筆者については後述するが、この本の執筆者はアンジャッシュの渡部建である。普段テレビ番組を見ない私でも「アンジャッシュのあの人か」と知っているレベルの人物である。書店で並んだこの本を見たとき「あの人、こんな本書いてたのか!」と感じた。

渡部氏は過去に炎上騒動を起こしており、そのイメージを引きずる私は「どうせ胡散臭い内容だろう?」と思いつつも興味本位でざっと立ち読みをしてみた。しかし、かなり興味深い内容が書いてありそうに感じたのでそのまま購入することにした。

購入後に熟読し、ためになりそうだなと感じたため、今回のレポートを書くに至った。

渡部建について

クソ野郎…だがトークは一級品

内容に入る前にひとつ話したいことがある。この本の著者は、お笑い芸人「アンジャッシュ」として活動している渡部建である。彼が書いた本ということで、彼とは切っても切り離せないバイアスについて事前に語っておく必要があるだろう。それは、"渡部はクソ野郎"である。

渡部氏は2020年に"多目的トイレ不倫事件"を起こした。佐々木希という素晴らしい妻を持ちながら不倫に及んだ彼の行動は、"渡部はクソ野郎"という印象を世間に植え付けたのは間違いない。私も当時、「渡部はなんてくだらないことをしたんだ、クソ野郎」という怒りが湧いた。

だが、渡部氏は芸人一本で25年以上ここまで食いつないでいる。魑魅魍魎うごめく芸能界を25年以上生き抜いている時点で、彼がタダモノではないことは間違いない。また、渡部氏の芸風や司会時のトークは安定しており、巧みなトーク力を持つことも事実である。

クソみたいな一面が渡部氏にあることは間違いないが、同時に巧みなトーク力で芸能界を生き抜いてきた実績もある。"渡部はクソ野郎、だからこいつの書くことは全部信用ならない!"と一面的に思う読者には一応クギを差しておきたい。

芸人としてのキャリアについて

1972年生まれ。2024年5月現在、51歳。

1993年に相方の児嶋一哉に誘われてお笑いコンビ「アンジャッシュ」を結成。巧みなコントで笑いを取る芸風を磨き、2003年にNHKの爆笑オンエアバトルにてチャンピオンに輝く。さらに、日本テレビの番組であるエンタの神様で大反響を呼び、一流のお笑い芸人としての地位を固める。ゴールデンタイムの番組の司会を任されるようになり、巧みなトーク運びで安定した人気を獲得していた。

2020年6月に"多目的トイレ不倫事件"が発覚し芸能活動を自粛するが、2022年2月に芸能活動の再開を発表。先の事件の厳しい批判を浴びながらも芸能活動を行っている他、芸能活動で磨いたトークをビジネスや恋愛等に活かすノウハウとして広める講演活動も行っている。

内容

●会話の達人は"話さない"

会話が上手い人というのは、何が上手いことを指すのか。
「話し方や内容が素晴らしい」と思う人も一定数いるかもしれない。
しかし、渡部氏は「相手に話をさせてあげることが上手い」としている。

渡部氏はPLATOnというラジオ番組のナビゲーターをしていた。この番組では様々な分野で活躍しているゲストを招き、彼らから話を聞くという番組である。

当初、渡部氏は先陣を切ってしゃべって話をリードするようにしていたという。「ゲストがトークに長けている人ばかりではない、だからナビゲーターとして私が会話をリードしないと」と、自分が話すことを重視していたのだ。

だが、渡部氏の想像もつかない分野のスペシャリストがゲストに来た時に「俺が頑張ってしゃべっても話を広げようがない」と思い、思いきってしゃべるのをやめてゲストをしゃべらせる方向で番組を展開させた。

すると、ゲストもどんどん話をしてくれるようになったとのこと。ゲストがその分野にはまったキッカケや分野の魅力等を軽快に語る様子はリスナーからも好評を博し、番組の価値をも上げたのだ。これが評判となり、渡部氏への仕事のオファーも増加したという。

相手に話してもらうメリット

・相手から良い印象を持たれやすくなる
面白い話をしてくれる人も魅力的だが、それよりもずっと「自分の話をおもしろがってくれる人」はずっと魅力的である。

それは、人間が「自分の話を聞いてもらえることに快感を覚える生物」だからである。自分の考えや感情を伝えるときに脳内ではドーパミンが分泌される。ドーパミンは、おいしいものを食べたり賭けに勝ったときに分泌される快楽物質である。

考えや感情を伝えることによる快感は、食欲などの根源的な欲求を満たしたときの快感と近しいといえるだろう。

・会話に対する苦手意識がなくなる
会話に苦手意識を持つ人は「面白いことを話し続けないといけない!」と思い込んでいることがある。これはお笑い芸人とて厳しいものである。

こうした思い込みから会話のハードルが上がり、会話することにしんどさを感じてしまう。しかし、相手に気持ちよくしゃべってもらおうと適切な質問を心掛ける人であれば、無理に面白いことを言ったりする必要はなくなる。

そもそも会話は「面白いことを言い続ける」ことが目的ではない。
お互いが考えや感情を語ることでお互いに脳内物質を出すことが会話の目的といえる。つまり、お互いがしゃべりやすい環境を作ってお互いがその時の考えや感情をただしゃべるだけで良いのだ。

わざわざ奇をてらったり凝った考えを言うことで面白さを演出しようとするのは手間がかかるし、それがウケるかどうかも不透明だ。だが、相手に気持ちよくしゃべってもらう手続き自体はあまり手間はかからない。しかもその手続きは一度身に着けさえしてしまえば一生使いまわしにできる。

会話の基本的な手続きを覚えて一定の会話経験を積めさえすれば、会話に対する苦手意識はキレイさっぱり無くなっていることだろう。

相手の話を聞いてるつもりの人あるある

・話題の乗っ取り
相手の切り出した話題に便乗した後に自分の話題へ切り替えてしまうことを指す。例えば下記のようなものである。

A: この間「ゴジラ -1.0」の映画を観たんだよねー
B: あっ!俺も見た!けっこうグロかったよね~。
 俺ってモノや人が理不尽に壊されたりするのがあまり得意じゃなかったから、
 映画見た後にどっと疲れちゃったよ。…

Aさんは映画を観たことを言っただけで、まだ何も話していない。
一方、BさんはAさんの話題に乗じて感想と自分の性格や考えといったことを語っている。(これがいわゆる自分語り)

話を切り出したAさんの感情はずばり、以下のようになる。
「Bめ、話題を中断した上に興味ない話までしやがって…むかつく」

話題の乗っ取りの厄介な点は、乗っ取りしている側は気づきにくいという点である。小学生くらいなら「きもいよお前」「勝手に割り込むな」など、乗っ取りした人に対してストレートに文句を言うこともあるだろう。

年代が進むと、ストレートに言う代わりに上手に受け流したり距離を取ったりするようになる。つまり、乗っ取り行為をする側が問題を自覚する機会がなくなるのである。

会話への乱入者に対し、周囲は「こいつウザっw」「早く止めてくれないかなー」「どっかいけ」と思いながら適当なうなづきをして乱入者を怒らせないようにしつつ、乱入者を優しく排除する方向で動く。

乗っ取りをしている側は「話せてすっきりした~」となるが、された側は「興味ない話されてうざかった~」となる。乗っ取り行為は"勝手に相手から嫌われる"原因の筆頭だろう。

・アドバイス魔
会話の目的は問題解決じゃなくて、話すことによるドーパミン分泌である。

"教えたがりおじさん"がゴルフ練習場などでトラブルを引き起こしている話をニュースやSNSでしばしば目にする。彼らが見ず知らずの他人にアドバイスを送るのは、アドバイスを送ることで感謝されると勘違いしているからである。

彼らに限らず、教えることは自己裁量で話すことでもあるから気持ちいい行為である。だが、見ず知らずの他人からアドバイスを受け取る側に立つとどうか。

見ず知らずの他人から突然話しかけられること自体に恐怖を感じる。その上で、相手の自分語りを聞かされるのである。聞かされる側は二重の恐怖と怒りを感じるに違いない。

聞かされる側はただ適当にうなづき、「勉強になります。ありがとうございます。」と言って教えたがりおじさんを帰すことに全力を尽くす。そして「ウザっww二度とくんな教え魔ww」と思うのである。

アドバイスというのは問題解決を目的とした伝達だから、論理的に正しいことが多い。しかし、これを会話の中でやろうとするとトラブルになる。楽しみを目的とした会話の中で突然アドバイスをしだすことは"正論パンチ"や"ロジックハラスメント"という概念で表記される。

特技を持っていたり自信のある分野を持っている人は、何かとアドバイスを送りたい気持ちを持つことが多い。だが、渡部氏は「相手から求められない限り、しないのが無難」と述べている。

「この話は本当に問題解決を目的としているのか?」と問いかけ、明らかに問題解決を目的とした話だとしたときだけアドバイスを行い、それ以外はアドバイスせず楽しさを目的に話をするべきだろう。

●良い関係の裏に、興味を持つ努力あり

コミュニケーションをうまくできない人がよく陥っている状況として「そもそも相手に興味がない」ことだと渡部氏は述べている。
相手に気持ちよく話してもらうためには質問が大事であるが、相手に興味がなければそもそも質問が浮かばないものだ。

就活で必ず質問されることの一つに「何か質問はありますか?」がある。典型的な逆質問であるが、これは面接官が就活生に対して彼らの興味がどのくらい深いものなのか図る側面が大きい。

逆質問の場で、競合他社と比較したスタンスや選択事業の違いの説明を求めたり昇進するための社内評価や必要な事項などを聞いたりできる人はある程度以上の意欲があることを面接官にアピールできるだろう。この場で「特にないです」だったり、面接先サイトを調べればわかることを聞いてしまうことで、意欲を感じないものと面接官は受け取るだろう。

業界やその会社のことを調べて知識を入れないといけないと何を質問したら良いかわからないわけだが、興味がなければ調べようとしないのである。

全ての人に対して興味を持てというわけではないが、良好な関係を築きたいと思える相手に対しては"興味を持つ努力をする必要がある"のだ。

物事以上にその人に興味を持つ

世の中には自分の知らないことの方が多いことは間違いない。逆に知っている分野でも、その取り組み方やスタンスは人それぞれである。
そう考えると、人に興味を持つというのは「その人が物事に取り組む理由やキッカケを知り、共感すること」ともいえる。

渡部氏が提示した具体的な例は、テレビ番組「マツコの知らない世界」においてMCを務めるマツコ・デラックス(以下、マツコDX)の会話スタンスである。

この番組では非常にディープな世界のマニアがゲストとして呼ばれ、彼らがマツコDXにその世界のプレゼンを行うというものだ。ディープな世界というのは、例えば下記のような世界である。

  • 噴水の世界

  • 養殖うなぎの世界

  • 赤べこの世界

一見して、普通の人は興味を持たない世界であろう。だが、マツコDXは「私はその世界に興味ないけど、あなたという人間に興味がある」というスタンスで会話を展開する。

ゲストの人となりや活動の原動力などを探ることにより、出演者はだんだんとゲストに興味を抱くようになり、出演者もゲストに対して質問をするようになる。出演者がみな会話に参加できるようになれば自然と話は盛り上がるのだ。

この人から何も学べない、は本当か?

相手に対して「何も学べない」と言うのは、「尊敬しておらず見下している」ことに他ならない。相手に対して自分より優れているか劣っているかだけで評価しすぎる人が陥っているとされる。

例えば"2024年5月現在93歳のとあるおじいちゃんと1時間お話ができる権利を持っている"とする。これだけで「そんなものに価値はない」としてしまうのは早計だ。では彼はアメリカのオマハ在住で名前がウォーレン・バフェットという情報を付けたしたらどうだろうか。

バフェット氏を尊敬している人なら泣いて喜ぶ権利であり、人によっては数十億円の値段を提示してでもその権利を買いたいと言うだろう。一応バフェット氏について説明すると、世界で十本の指に入る資産家であり世界三大投資家のひとりと賞賛される人物である。

これは極端な例えではあるが、相手の経験や考えに対して尊敬せず見下した姿勢で接することは愚かといっていい。どんな相手でも、彼らなりの経験や視点があることに留意すべきである。

●話しかけやすい人の法則

話しかけやすい人の特徴は話しかけにくい人の逆であると考えると、浮かび上がるものである。会話しているとだんだんイヤな気分になる人の特徴について、渡部氏は下記のように述べている。

  • 悪口/愚痴/陰口を言う人

  • まず否定から入る人

  • ネガティブなことばかり言う人

  • プライドが高そう

  • 隙がない

  • 怒られそう

こういう人と話すと、暗い気分にさせられたり疲れたりするだろう。
ここから考えると、話しかけやすい人は下記となる。

  • 悪口/愚痴/陰口を言わない人

  • まず肯定から入る人

  • ポジティブなことばかり言う人

  • 人間味がある

  • 隙がある

  • 怒らなそう

性格は定数、行動は変数

話しかけやすい人になるためにポジティブになれ、と言われても難しいかもしれない。例えば、慎重で思慮深い性格を持つ人の場合はポジティブになりにくい。不安な点が少しでもあれば疑念を抱き、納得するまで調査して不安な点が解消されない限りはポジティブに捉えることが難しい性格だからだ。

こうした慎重で思慮深い性格は経理や法務といった細かなミスが大事に至る分野では極めて重要な性質であるため、安易になくせば良いものではない。しかし、会話の場面では優柔不断でネガティブな言動は盛り上がりに欠ける。

渡部氏は「性格は変えられないが、言葉と行動は変えられる」と述べている。話しかけやすい人として見られたい場面であるならば、それ相当の行動をすることが必要だろう。

お笑い芸人はまさにその典型だと渡部氏は述べている。お笑い芸人は舞台の上やカメラの前では明るく面白いトークを繰り広げるが、プライベートでは寡黙で暗く全然しゃべらない人も多いという。

話しかけやすい人としての行動だが、マイルールを作ってそれを守るのが良い。例えば「職場で近くの島の人にも挨拶する」「部下に指摘事項を言うときは、良かった点も言ってから言う」といったものだろう。

自己開示の禁止事項:自慢話

会話で何か話したい話題があったら、普通に質問する。しかし、質問だけで盛り上がることは稀なので、軽い失敗談や生い立ちなどを自己開示して会話テンプレを与えてあげるのが良い。

ただ、自己開示で禁句と言っていいのが自慢話である。自慢話をすることで多くの人は不快な気持ちを抱く。具体的には、相手の劣等感を刺激するからである。確かに自慢話をしているときは幸せだし気持ちがいい。だが、それを受ける相手は劣等感を刺激され続け不快なのである。

自慢話をする大半の目的は「俺ってすごいだろう!」と相手にわからせ、相手から「すごいね」と言われることであろう。いわゆるマウンティング行為であるが、この背景には自分自信への不信や不安がある。他人からの賞賛を受けないと自分の存在意義を満たせないということである。

自慢話がクセになっている人は、もしかすると完璧主義や高すぎる理想のあまり、現実の自身とのギャップに苦しんでいる可能性がある。今回のテーマから外れるので詳細は割愛するが、根本解決には自分を受け入れることから始める必要がある。

話しかけやすいキャラは「人間味があり」「隙がある」ことを見せるのが上手い。自己開示ではこの二要素をふまえた話題を出すのが良い。このため、軽い失敗談や多少の自虐などの逆マウンティング行為が良い。

心理的安全性と笑い

逆マウンティングによって、話しかけやすいキャラのアピールができると同時に、心理的安全性もアピールすることができる。心理的安全性について渡部氏は「要するに、『この人には何を言っても大丈夫だ』と感じられる状態」と述べている。

例えば仕事はできるが否定してくる厳しい上司がいたとして、彼の参加する会議の参加者は以下のように思うだろう。

  • 何を言っても怒られそう

  • 何を言っても自分の評価を下げて来そう

  • 何を言ってもバカにして指摘してきそう

もしかすると、この状態に陥っている会社は身近に存在するのかもしれない。例えばミス報告をしたら厳しく叱責され左遷される事例が起きた会社ではミス報告をしないことが定例化した、その結果非常に大きな障害や事件を引き起こした…という事例はあるだろう。

このように、能力はあっても他人に厳しく否定してくる人に対しては心理的安全性がないといっていい。逆に、そこまで仕事はできないが肯定的な反応を示す上司であれば心理的安全性は十分確保できるだろう。

また、渡部氏は「人気番組のMCの共通点はゲラである」と述べている。
ゲラというのは、とにかくよく笑う人のことである。MCが笑うことで出演者も気軽に話せるようになるほか、視聴者もまた「この話は面白いんだ」と思えるようになる。

普段の会話でも、何か話してとくに表情変化もなく淡々とした返答をする人と笑ったり表情変化が大きくハツラツとした返答をする人であれば、おそらく後者の人と話し続けたいと思うだろう。これは、相手が話を聞いていることがわかるので話し続けて良いと感じやすいからだ。

渡部氏は会話における笑いについて、下記のように述べている。

極端な話、相手の発言に対してよく笑ってさえいれば、だいたいの会話はそれだけでうまくいくと言っても過言ではありません。

渡部建、超一流の会話力 P111

●相づちと話題提供の極意

話しやすい雰囲気を作って相手が話し始めてくれたとしても、会話の聞き方がよくない場合は話し続けてくれない。渡部氏は「リアクションが重要」と述べている。併せて、リアクションと印象の関係について下記のように述べている。

  • リアクションゼロは印象がものすごくマイナス

  • リアクションありで印象はプラマイゼロ

  • 大きなリアクションで印象はプラス

渡部氏は「悪いリアクションをすると印象はマイナスで、ノーリアクションならプラマイゼロなのでは?」と多くの人は思っているようだが、実は違うとも述べている。

コミュニケーションで最も嫌なのは、自分が一生懸命話しているのに相手から何も反応がないことである。何も反応がない場合、相手がどう思っているかわからないことに対して恐怖を覚える。これには、システム開発業務をしている私も共感する。

例えばプログラムを実装した際に誤りがあったとする。エラーメッセージがあれば何が誤っていたかわかるし、次につながる。だが、何のエラーもない場合は何が誤っていたかわからず恐怖を覚える。
また、詳細を追うためにはログやデータを追う必要があり、このためにテストデータやテストプログラムなどを用意する必要がある。仕事でやっていることだとはいえ、手間がかかって面倒くさい気持ちはとても感じる。

Is over-reaction overrated?

「そんなにオーバーリアクションが評価されるなら、常にオーバーリアクションすればいいじゃん」と思うかもしれないが、それはあり得ない。リアクションは会話場面やタイミング・相手との関係性で使い分ける必要があるからだ。

静かにすべき場面で爆笑したり、相手の話の途中で突然爆笑したりとタイミングや場面にあってなかったり、初対面からなれなれしく反応したりした場合は悪印象につながるものである。

ただ、タイミングや場面・関係性を見極めればオーバーリアクションなくらいで全く問題ないだろう。会話はプロレスだと思えば良い。

プロレスは「お前の技をしっかり喰らうから、お前はこっちの技もしっかり喰らえ」という暗黙の了解で成り立っているエンターテイメントである。相手の技を受けてしっかり痛がり、その後こちらも技を繰り出していくものだ。これと同様に、会話でも流れやタイミングを読んでオーバーリアクションで応えるのが正着なのだ。

●相手が話したくなる質問のコツ

質問は相手に興味があるというメッセージである。
「愛の反対は憎しみではなく無関心だ」という有名な言葉に照らせば、愛がなければ無関心となる。無関心な人は質問をしないので、必然的に質問をしないことは愛がないということになる。

渡部氏は企業向けのセミナーで講演をした際、質疑応答の時間にだれからも質問が来なくて「今回の話は面白くなかったのか?」と不安になったそうだ。なお、その後ひとり質問をした後に多くの人が続いて質問をしてくれたのでホッとしたという。

私も過去にとある陸上競技の合宿でコーチをし、座学の講演として走高跳の理論を説明したことがある。その際もスライドの説明時に反応が薄く、質疑応答の時間にも少しの間質問が出ず不安を抱いた。ひとり質問をした後には続々と質問が続いてくれてホッとしたことを覚えている。

ただ、講演中に「俺の話し方が下手なのかなぁ」「理屈寄りの話すぎて面白くないのかなぁ」「ありえないとは思うけど、参加者の走高跳に対する意識が低いのかなぁ…」など不安を抱かざるをえなかった。

内容をある程度踏まえた質問をしてくれるということは、話し手を安心させる。どのような質問をすれば良いかについては、この後の節で解説する。

「縦・横・前・後」の質問フレーム

渡部氏の考える質問のルールは、縦・横・前・後で質問することである。

  1. 縦の質問

  2. 横の質問

  3. 前の質問

  4. 後の質問

ここでは「趣味は休日にスポーツ観戦をすることです」という話題に対する質問を例に挙げてみる。

縦の質問は「話題の深堀り」

  • どのスポーツを観ることが多いですか?

  • どこへ観戦しに行きますか?

  • どのくらいの頻度で観戦しますか?

横の質問は「話題の軸ずらし」

  • スポーツ観戦以外だと何をしていますか?

  • スポーツ以外に何かを見に行ったりしていますか?

休日の活動を軸にした聞き方・趣味を軸にした聞き方など、話題に存在するいくつかの軸から別軸を選んで展開することである。これはつまり別の話題に切り替えるものであるため、横の質問を連発するのは会話として不適切である。

前の質問は「話題の過去」

  • 何がキッカケでスポーツ観戦を始められたんですか?

  • スポーツ観戦をしてきた中で一番印象的だった場面は?

後の質問は「話題の未来」

  • 次のスポーツ観戦ではどこに行く予定ですか?

  • いつか行ってみたいスタジアムがあれば教えてください!

質問フレームワークの活用

特定の話題に対して適当にこれらの質問をするのではなく、ある程度の流れをもって質問するのが自然である。このフレームを利用すると、下記のような流れで質問をするのが良い。

縦→前→後→横

ある話題に対してはまず深堀りをする。次に、キッカケや印象的だった場面や思い出について聞く。次に、それに対して将来どういう取り組みをしていくかについて聞く。最後に、話題に含まれる別軸へつなげていく…というものだ。

学んだこと

過去の自分と"隙自語モンスター"

小学校・中学校くらいの自分は極度に自信を持てない人だった。思い返せば、隙あらば自分語りで自慢をする「隙自語モンスター」と化し、とっつきづらい人だったように思う。会話の節々でそういうことをしてきた以上、周りは私を会話から追い出すようにしていたに違いない。

私は、会話に関して学習性無力感を覚えていた。このため、小学生ぐらいから目的のない話は極力しない生活をこころがけていた。
その時の考えとしては「私は、相手を楽しませようと話をしても楽しませるどころか不快にさせてしまう。それは申し訳ないから、問題解決を目的とした話以外はしない」であった。

こうした自分語りの背景に自分を大きく見せたい心理があり、その背景には自分に対する自信が持てないことがあると思う。

生きていく中で、何らかの挑戦を行った際にどうしても失敗はする。ただ、失敗をしながらもときどき成功をおさめていくことでだんだん自信を持てるようになる。このように、失敗を乗り越えた体験を通して自信をつけながら成長するのが一般的な人である。

しかし、その過程で失敗を過剰に批判する他者がいたり、失敗をキッカケにいじめに遭ったりすることで学習性無力感を覚えてしまう。いわゆる「頑張っても批判されたりして不快だしいじめられるから、最初から頑張らない」という感情である。学習性無力感により、自信獲得のスパイラルから外れてしまう。

こうした仕打ちを受けると、どこか自信を持てないまま生きることになる。すると、自分に自信が持てない分を自分を大きく見せることで補うこととなる。このため、会話の端々で自分語りをしがちになる。

あまり記憶にはないが、もしかすると幼稚園や小学校前半の段階で失敗を過剰に批判する先生がいたのかもしれない。もしくは、親の言ったなにかの一言を過剰に受け止めてしまったのかもしれない。ただ、どこかのキッカケで会話に対する学習性無力感を感じて会話から逃げる生活を送ってきたのは事実である。

この本を読んで活かしたいこと

お笑い芸人として芸能界を生き抜いてきた経験と一級品のトーク力を持つ渡部氏が語る会話力の話はとても参考になった。特に学びになったのは下記のである。

  • 会話がうまい人は、面白いことを言える人ではない。相手にしゃべらせるのが上手い人である。

  • 会話が下手な人は自分語りをして自分だけ気持ちよくなろうとしている。

  • 相手の趣味や行為そのものに興味を持つ必要はないが、なぜその趣味や行為で気持ちが高まるかに興味を抱くと良い。

  • 自身の性格は変えにくいが、行動は変えやすい。行動を変えるために自身の性格を把握し、話しかけやすい人と認識される行動を取ろう。

自分語りとは、下記のような行動が挙げられる。

  • 相手の話題をダシにして自分語りの材料として利用する。

  • 相手から求められてないのに勝手にアドバイスや正論を話し出す。

  • 隙あらば自慢話をして自分を大きく見せる。

この自分語りについては、過去の自分がしてきた会話スタイルだったなと強く感じるものであった。こんなことばかりしてたらそりゃあ相手も疲れて不快になるだろうし、穏便に会話から追い出すような動きをされるだろうなと思う。

仕事場で上長や同僚と会話をある程度しないといけない以上、会話に関する改善はしてきた。この本やそれ以外の本を読んで知識をつけた上で実践を行い、いろいろな失敗をしながらもなんとか人並みの会話はできるようになった。それでもこの本で失敗パターンと書かれている行為をときどきしてしまうことがある。

特に自慢話に関しては油断していると出てくることがあるため、今後は特に自慢しそうになったらこらえるようにしたい。

会話は問題解決を目的とした会話ではなく、互いに楽しい時間を過ごすことを目的としている。もっと科学的にいうなら、脳内でドーパミンを出すために行っている。「どうしたら私も相手も脳内でドーパミンを出すような行動が取れるだろう?」と考え、それを会話とふるまいで表現できるようにしていきたい。


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