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1.小さな街が好きな理由(第2章.旅先で考えた小さな街の素晴らしさ)

 私が初めて海外の土を踏んだのは1992年2月。場所はフランスの首都パリである。パリで1日過ごした後は、早々と列車に乗って南フランスのアヴィニョンへと向かった。

 そしてパリから約4時間。列車は目的地アヴィニョンに到着した。バックパックを抱えてホームへ降り、駅舎の外へ出た。目の街には城壁に囲まれたアヴィニョンの街が広がっている。パリ以外で初めて見る海外の街。この風景に触れた瞬間、ここはパリとは違う風が吹いている、と感じた。

 アヴィニョンで最も有名な観光スポットはアヴィニョン橋(正式には「サン・ベネゼ橋」という)である。「♪アヴィニョンの橋で踊ろよ、踊ろよ…」という歌でお馴染みの橋だ。観光客は駅を降りたら、街を歩きながらまずはこの橋を目指すのが定番コースである。

 しかし駅から橋まで歩いて15分ほど掛かる。その間、我々は様々な光景に出くわす。

 メインストリートの古い街並み。カフェの前を通り過ぎると愛想のいい給仕係の店員が微笑み掛けてくる。メインストリートを過ぎると、街の中心、市庁舎前広場に出る。メリーゴーランドの前では親子連れが戯れ、ベンチではお年寄り同士が何やら熱い議論を繰り広げている。そして市庁舎前広場からさらに細い路地へと歩を進めると、少年達がサッカーボールを追いかけている光景に出くわす。ふと上を見上げると、旧市街の古い建物の間から真っ青な空が覗き、午後の強い陽射しが濃い影を作っている。

 そんな光景と対話しながら目的地である橋へと辿り着く。いや、目的地は橋であるかもしれないが、後になって印象に残っているのはむしろ何気ない日常の風景であることが往々にしてあるのだ。小さな街のいいところ。それは、まさに歩いて回れる、ということだ。歩いて回れるからこそ、一つの名所旧跡に辿り着くまで、様々な街のぬくもりを感じることが出来るのだ。

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 仮に、これが大きな街の場合、どうであろうか?例えばパリ。パリの玄関口シャルル・ド・ゴール空港に降り立ち、そこから凱旋門を目指す場合、我々はメトロに乗って凱旋門の最寄りの駅を目指すだろう。最寄りの駅から凱旋門まで3分程だから街の息吹を感じることも自ずと制限される。恐らく、最寄りの駅周辺しか見ることもなく、点(観光スポット)と点(観光スポット)を行き来するだけの旅になってしまう。ともすれば、旅が名所旧跡の確認作業に終始することにもなりかねない。もちろん、このような旅の楽しみ方もあっていいと思う。時間が制限されている場合などは手っ取り早くていいだろう。

 しかし、街の息吹を感じたい、街の人と触れ合いたい、と思うのなら、やはり歩くことをお勧めしたい。しかも前述の通り、歩いて回れる小さな街がいい。初めは観光スポット(点)を目指して歩いたとしても、それが次第に点と点がつながり線になっていく。その時、街自体の魅力に気付くことが出来るのだ。

 私は初めての海外一人旅でアヴィニョンのような小さな街(と言っても9万人程の人口があるが…まあ、パリよりも小さいという意味で…)へ行ったことで、小さな街の魅力にとりつかれ、以後、海外へ行く時は必ず小さな街へ立ち寄ることにしている。今にして思えば、このアヴィニョンでの体験が私の海外一人旅のスタイルを決定づけたと言っても過言ではない。

 橋のたもと。ローヌ川を眺めながら私はパンをかじった。朝、パリのホテルで出されたパンを幾つかナプキンに包んで持ってきたのだ。目の前のローヌ川はゆったりと流れ、心も何故か穏やかな気持ちにさせてくれる。この時、私は旅先で何気ない風景の中にいる自分が何だかとても誇らしく思えた。

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