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2.クスクスとカレー(第8章.旅先で考えた食することの楽しみ②)

 クスクスという料理をご存知だろうか?挽き割り小麦に肉だの野菜だの豆だのが入ったスパイシーなスープを掛けて食べる料理のことである。北アフリカの料理であるが、私は南フランスの街マントンで初めてクスクスを口にした。

 挽き割り小麦はそのままでは味はしない。また、一見したところ少量に見える。しかしスープを掛けると深い味わいになる。独特の香辛料がクセになるのだ。そして初めは少量に思えた挽き割り小麦がスープを掛けることによって膨らんでくる。それを腹の中に入れるとさらに膨らむ。食べていくうちに腹がいっぱいになり、レストランを出る時には腹をポンポンと叩きながら後にしたのを覚えている。

 実はこのクスクス。フランスでは極一般的、というか人気の料理みたいだ。もともとは北アフリカのマグレブと呼ばれる地域(モロッコ、チュニジア、アルジェリア、リビア)の料理であるが、マグレブ地域の宗主国がフランスであることからフランスに浸透していったものと思われる。

 実は私は、クスクスをフランスで初めて食べた2年後にクスクスの本場、チュニジアを訪れた。別にクスクスを本場で味わいたかったからチュニジアに行ったという訳ではないが、もちろんクスクスは食べた。独特の香辛料が使われていて、やはりフランスで食べたものとほぼ同じ味わいだった。

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 クスクスを食べながら少し思ったことがある。それは、クスクスの食べ方が何となくカレーライスと似ていないか、ということだ。挽き割り小麦にスパイシーなスープを掛ける、という食べ方。それがライスにスパイシーなカレーを掛ける、という食べ方に似ていると思ったのである。

 カレーももともとはインドが発祥である。それがインドの宗主国イギリスに伝わった、というのは周知の事実である。そんな食文化の伝わり方もクスクスとカレーの共通点だと私は勝手に考えているのであるが…。

 クスクスとカレー。世界への浸透度はどうか。日本人は日本にかなり浸透しているカレーに軍配を上げたくなる気持ちは分からなくはない。しかし、私がイギリスへ行った時、ロンドンのソーホー地区でインド料理店のメニューを見て回ったところ、3軒回ってようやくカレーがメニューに上っている店を見つけた。もちろん、味は申し分なかったが、本当はカレー屋をロンドンで探すには、北ロンドンのインド人街へ行くのが定番だという。いずれにせよ、カレーもクスクスも世界への浸透度は五分五分といったところかもしれない。

 それにしても食とは面白いものだ。地域を越えて国境も越える。それは恐らく食が人間の営みにとって欠かせないものだからであろう。腹が減れば、たとえそれが今まで食べていなかったものだとしても選り好みをせずに食べる。そしてそれが美味しいものならどんどん広がっていく。私はそんな食の身軽さが本当に羨ましく思える時がある。

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