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3.タイのおおらかな乗り物(第5章.旅先で考えた乗り物のこと)

 タイの古都アユタヤへ行ったことがある。アユタヤは1351年から1767年まで続いたアユタヤ王朝の中心である。古い遺跡が数多く残っており、以前から行きたいと思っていた所だ。

 アユタヤへ行くにはバンコクから鉄道に乗って1時間30分〜2時間くらいだ。バスで行くことも出来るが、鉄道好きな私はあえて鉄道で行くことにした。

 列車は8:30、ほぼ定刻通りにバンコクを出発した。いよいよアユタヤへの旅が始まる。私が乗った車両は2等車で、リクライニング・シートにエアコンも効いていて、なかなか快適な汽車旅が楽しめる。車窓から見える風景も大都会バンコクから離れると、一変して長閑な農村地帯が広がってくる。

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 途中、ある駅に停車した。しかし何やら様子がおかしい。列車は駅に停車したまま一向に動く気配がないのだ。事情はよく分からないが、何かトラブルがあったみたいで立往生している。乗客はその間、買い出しに走ったり、タバコを吸いに行ったりしている。

 そのうち客室乗務員が乗客にパンとコーヒーを配り始めた。恐らく列車が止まってしまったことへのお詫びなのだろう(でも、初めからパンとコーヒーを用意してあるところがすごい!ということは、列車のトラブルを初めから想定しているということなのだろうか…)。このような状況になっても乗客は慣れっこになっているようで、イライラする人など見当たらず、むしろ一体感が生まれ、さらにパンとコーヒーのお陰で車内が何となく温かい雰囲気に包まれた。私自身も「旅が出来なくなった訳じゃない」と楽観視することが出来た。

 やがて車掌がにこやかな表情で車内を回り、何か喋っている様子がうかがえる。もうそろそろ出発するのだろうか?そう思っていると、ようやく列車は動き出した。結局、1時間以上も立往生していたことになる。

 そして今日の目的地アユタヤに到着したのは、当初の予定時刻9:43を大幅に遅れて、11:10頃だった。ホームに降りると、バンコクとは全く違う空気が流れていた。

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 「アユタヤへはバンコクから鉄道で1時間30分〜2時間くらい」とガイドブックに書いてあった。列車が遅れることが多々ある、ということで、このようなアバウトな載せ方をしているのだ。しかし、タイ初心者の私にとっては、ここまで遅れることは想定外だった(まあ、初心者ならガイドブックを信じるのが自然だろう)。

 一方、現地の人達は遅れることが前提で列車に乗っていると思える雰囲気があった。30分の遅延なんて当たり前。1時間だって想定内。そういつも思っているから、あのようなトラブルがあっても皆イライラしないのだろう。

 遅れることが前提で列車に乗っている…このことは、車両整備や運行管理のアバウトさをタイの人達が承知している、要するに、タイの人達自身が「どうせ我々の国の鉄道は遅れるからね」と自嘲気味に思っているということなのだろうか?もちろん、車両整備や運行管理のアバウトさに対する自嘲もあると思う。ただ、私は列車が止まった時のタイの人達のあのおおらかさは、もっと別のところにあるのではないかと思う。

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 実はタイでは、渡し舟が大活躍している。タイの人達にとっては対岸へ渡る手段として渡し舟は欠かせないものだ。また、日本円で10円〜20円くらいの運賃で利用出来、東南アジアらしい風情に浸ることも出来るとあって観光客にも人気だ。水に育まれたタイならではであろう。

 この渡し舟。時刻表なんて無い。人がある程度集まれば随時出発だ。もちろん、大雨なら運行さえ出来ない。私が思うに、列車が遅れてもおおらかでいられるタイの人達は、このおおらかな渡し舟と関係があるのではと思えてならない。もともと渡し舟を利用する生活がずっと昔から身についている。だから列車が少しくらい遅れても寛容でいられるのではないか。タイの人達の笑顔とおおらかさ。豊かな水の生活と切り離せないものであると私は勝手に思っている。

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