4.pay it forward〜旅人を迎える側として(第10章.旅先で触れた親切〜pay it forward)
今回の旅のエッセイを通して私の旅の体験談と旅に対する思いを綴ってきた。最後に、逆に私が旅人を迎える側の人間として体験したことを書いてみたい。
2014年9月。よく晴れた土曜日の午前中。私は埼玉県飯能市の辺りを一人、車を走らせていた。ここから私の自宅のある埼玉県小川町へ帰るために、である。
ちょうど前方、左側の路肩沿いに、リュックサックを背負った二人組がヒッチハイクをしているのが目に留まった。彼らはヒッチハイクの時にするお馴染みのポーズを取り、1台1台の車に訴えかけている。その姿を見て、私は思わずブレーキを踏み、自動車を路肩に停めた。私だって、旅先で車に乗せてもらった経験が何度かあるのだ。逆に自分が旅人を向かえる側になったら、少しは旅人の役に立ちたい。そう思い、反射的に車を停めた。
私は助手席の窓を開けた。見ると彼らは白人系。まだ若い男女二人組だった。私は彼らに「どちらまで?」と話し掛けた。すると「秩父」と言う。ここは飯能市。これから私は北上して自宅のある小川町に帰ろうとしていた。ここからだと40〜50分で帰れるが、彼らが行きたい秩父市はここから西のほう。だいたい1時間くらい掛かる。ここから秩父へ行って小川に帰れなくはないが、2時間くらい掛かるだろう。時間的にはかなりのロスである。それでも私は「どうぞ」と言って彼らを後ろの座席に乗せていた。そして「秩父までは行けないが、途中までなら」と言った。彼らも「それでいい」と言った。
さて、私はヒッチハイカーの彼らを乗せて車を出発させた。聞くと彼らはアメリカ人。今、日本に来て、中学校で英語の補助教師をしているという。今日は休暇なのでヒッチハイクをしながら長野県松本市まで行きたい、と言っていた。女性のほうは日本語が結構喋れたが、男性のほうは少しだけ。だから我々3人の会話は日本語半分、英語半分である。それでも何とかコミュニケーションは出来る。不思議なものだ。
飯能から秩父へ行くには国道299号線をまっすぐ走ればいい。山沿いを抜けるこの道路は何度走っても気持ちがいい。彼らも窓の外を眺めながら「きれい」と言っていた。
しかし走りながら、私はふと気付いた。彼らに「秩父までは行けないが、途中までなら」と言ったけど、この国道299号線、いったいどこで降ろせばいいのだろう。だいいち、小川に帰ると言ってもこの国道は秩父へ抜けるまで小川方面の道など無い(あることはあるが峠道なので時間はそこそこ掛かる)。これならいっそのこと秩父まで行って彼らを降ろして、それから小川に帰ってもいいのではないか、そう思ったのである。どうせ今日は休日だ。
それで彼らに言ってみた。「秩父まで行く」と。すると彼らは物凄く喜んでくれた。そして私は、自分自身も旅が好きであることを彼らに話した。今まで色んな国に行ったこと。そして旅先で色んな人から親切にしてもらったこと。それがどれ程助かったか、またどれ程嬉しかったか。「だから僕は、あなた達旅人に親切にしたい。いつ自分の立場が逆転するか分からないから、自分が迎え入れる側になったら親切にしたい」と話した。
すると彼らはこんな言葉を教えてくれた。「pay it forward」…つまり「恩送り」である。恩返しは自分が受けた親切を、親切をしてくれた人に返すこと。これに対して恩送りは、自分が受けた親切を、親切をしてくれた人に返すのではなく、まったく違う第三者に親切にすることである。そうすることによって、優しさの連鎖が続いていくというものだ。
彼らに教えてもらった「pay it forward」という言葉に私のハッとさせられた。私が旅先で受けた親切の数々。いつか自分が旅人を迎える側に立った時、必ず旅人に親切にしてやろうと思っていた(お節介になり過ぎない程度に)。それがいともたやすく出来たではないか。
車はついに秩父の街中に入り、私は西武秩父駅の前で車を停めた。ここで彼らともお別れである。彼らは礼を言いながら私にチョコレートを差し出した。私は彼らと握手を交わし、旅先での無事を祈った。そして、もう一つ祈った。「pay it forward」という言葉を教えてくれた彼らがアメリカに戻った時、アメリカを訪れた旅人に親切にしてやることを…。
これで本文は全て終了です。
次回はいよいよ、あとがきです。
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