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2.アドリア海沿岸の二つの街〜路地裏に心を寄せる旅人(第2章.旅先で考えた小さい街の素晴らしさ)

 私は海外へ行く時、出来るだけ二つ以上の街を訪れたいと思っている。理由は移動することが好きだからだ。また、一つの街を見ただけで、その国のこと全てを分かったつもりになりたくないからだ。

 二つの街を訪れる時はまず首都を見て、それから列車やバスで移動出来る範囲の地方都市に行く、というのが定番だ。しかし、アドリア海沿岸へ行った時、二つの街を訪れたのであるが二つとも首都ではなく、小さな街で、しかも属する国も違っていた。その二つの街はクロアチアのドゥブロヴニクとモンテネグロのコトルである。とは言いつつ、二つとも世界遺産に登録された観光地ではある。

 さて、南東ヨーロッパ。バルカン半島に位置するクロアチアはかつてユーゴスラビアと呼ばれていた。1991年、独立に伴い内戦が泥沼化し、街も人も多くの犠牲を出した。そんな歴史を背負ったクロアチアにドゥブロヴニクという街がある。「アドリア海の真珠」と称えられる美しい街だ。

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 私がこの街を訪れたのは2016年。戦争終結から20年以上経っている。街はメインストリートに関して言えば、かつてここで内戦があったことが嘘のようにきれいに整備されている。というか、壊滅的な被害を受けたからこそ、きれいに再建されたといった雰囲気が伝わってくる。

 しかし、スルジ山という海が見渡せる小高い山の上には内戦時の砦が残され、砲弾の跡など戦争の傷跡を生々しく伝えている。また、メインストリートから路地裏の石段を登っていけば独特な情緒がある。路地を上り詰めた所から見下ろす旧市街。肩寄せ合うように並んだ小さなショップ。洗濯物がはためく住宅の窓。路地裏の階段に腰を下ろして語り合う住民。砲弾の跡が消えぬ路地裏で人々は懸命に生きている。それは内戦の傷跡を乗り越えていこうとする街をアドリア海が包みこんでいる、そんな情景と重なる。

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 そんなドゥブロヴニクからバスに乗って国境を越える。そしてバスに乗ること3時間半。モンテネグロのコトルという街に着いた。

 モンテネグロもクロアチア同様、かつてはユーゴスラビアに属していた。今は小さい国ながらも一つの国として成り立っている。そして、このコトルという街もアドリア海沿岸の美しい街である。街の背後には険しい山があり、その山に沿って城壁が築かれている。そして聖トリンプ大聖堂というカトリックの教会と聖ルカ教会という東方正教の教会があり、観光スポットになっている。

 しかしコトルの魅力はやはり路地にある、と私は思う。街の規模もドゥブロヴニクより小さいので、より観光地化されていない良さがある。石畳で出来た細い路地の両側には古い建物が並び、それらには小さなショップが入っている。そして、その佇まいが非常に落ち着いているのだ。観光客も(私も含めて)もちろんいる。しかし、路地裏でサッカーボールを追う少年のはにかんだ笑顔に出会った時、地元の人の中に入り込めたような錯覚に陥った。
 そんなコトルの街角でとあるスーパーマーケットに入った。私がミネラルウォーターをレジに持っていくと、20代と思しきスタッフの女性がレジを担当してくれた。彼女は私が代金を払って立ち去ろうとすると、とびきりの笑顔で「Thank you, bye bye」と言ってくれた。彼女の気持ちのいい接客を見て私は思った。我が故郷に外国人観光客がふらりとやって来た時に、我々も彼女のような気持ちのいい接客が出来るだろうか、と。そして地元の人の何気ない接客こそが旅人にとっては生活臭を感じることの最初の入り口であるということを。
 さてさて、ドゥブロヴニクでもコトルでも、小さな街だからこそ路地裏の良さを感じることが出来たし、私はそんな地元の生活臭のする路地裏が好きだ。そしていつでも路地裏に心を寄せる旅人でありたいと思う。

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