見出し画像

セキュリティトークンの規格ERC1400で何ができるのか?

今回はERC1400について記事にしたいと思います。

ERC1400とはSecurity Token Standardを実装した規格です。Security Token(以下セキュリティトークン)はユーティリティトークン(ERC20※)を拡張した様なトークンで、いわゆる有価証券の様に会社の保有権の一部を表したり、トークン保有に関しての法的な制限(KYC等)をクリアした人だけが保有できるといった特徴があります。

このERC1400の特徴と、どの様に実装されているのかを説明していきます。なお、本記事においてERC1400と表記していますが、記事執筆現在はERCとしてファイナライズされておらず、EIPを参照実装したものを紹介いたします。

※ERC20はEthereum上で新たな通貨を扱うための規格です。通貨の発行、転送、消却に関するメソッドが定義されており、BinanceのBNBトークンや日本だとAlisトークンもこのERC20を用いて独自通貨を発行しています。

要件

ERC1400ではセキュリティトークンのエコシステムを以下の様に規定しています。

Must:
1. トークンの転送を行い、失敗した場合にその理由を返す
2. 法的措置や資金回収のための強制的にトークンを転送することができる
3. トークンの発行と償還(換金)時に、一般的なイベント通知を発行する
4. 特別なトークン所有者権限や譲渡制限など、トークン所有者の残高の区分にメタデータ(証券の説明を書いたPDFのURLなど)を添付することができる
5. オフチェーン、オンチェーンのデータ、転送のパラメータからメタデータを修正することができる。
6. セキュリティトークンに関するドキュメントのアップデートに関する問合せや、アップデートのお知らせを受けることができる
7. ERC20と互換性がある
May:
8. オンチェーンで検証できる様にトークン転送のトランザクションに署名付きデータを渡す
Should Not:
9. 管轄区域間で資産クラスを制限してはいけない
Could:
10. ERC777と互換性がある

ERC1400構造

下図はConsensysが参照実装したERC1400の継承図を表しています。実際のEIP1400の要件事項以外にもいくつかの機能が含まれてはいますが、主要な機能を紹介します。

ERC1400Raw: セキュリティトークンの発行や転送など基本的な機能の実装
ERC1400Partition: パーティション機能を実装
ERC1400:トークンの詳細を表すドキュメントの追加やトークンの転送失敗時のステータスコードなどセキュリティトークンを扱う上で必要な機能の実装

画像1

ERC1400の特徴

ERC1400はERC20のインターフェースを継承して、発展させています。ERC1400とERC20の異なる点については、大きく下記の3つが挙げられます。

1. パーティション
2. 償還が可能
3. メタデータ(証明書等の情報)

パーティション
ERC1400ではパーティションという概念があり、同じ証券でもパーティションごとに異なった性質を持つことができます。以前はERC1400上ではトランシェという呼称でしたが、今はパーティションと呼ばれています。トランシェとは下図の様に金融商品をリスクや利回り等の条件によって分けた区分のことです詳しくはこちらの記事を参照 )。

画像4

一方パーティションでは、トランシェに限らず異なる性質の証券や債権を表すことができます。

例えば、ERC1400で発行したトークンについて、利率は低いがすぐに取引可能なトークンをあるパーティションとして、また利率は高いが1年間保有していないといけないトークンを別パーティションとして同時に発行することができ、それらのパーティションごとにトークンの取引を行うことができます。ERC20では1度に1種類のトークンしか発行できませんが、ERC1400ではトークンをパーティションで分けて、同時に発行することができます。

パーティションの種類として任意の名前を設定でき、例えば”高利回り","低利回り"といった名前をつけることもできます。

償還が可能
ERC20はそれ自体を通貨として利用することが多い一方で、ERC1400はあくまでセキュリティトークンとしての規格であるため、通常の証券の様にトークンを償還するメソッドがあります。償還による払い戻しは別のコントラクトやオフチェーンで実装すると通常バーンと近しいロジックになります。以下は償還に関連するロジックです。

画像2

※オペレータとはトークン所持者の代わりにトークンの償還や転送などが行える権限を持っており、トークンの取り扱いの委託先です。基本的にはオペレータ(委託先)による使用が想定されていますが、トークン所有者が法律違反などを犯した場合には規制当局がこの権限を持っていればトークンの強制転送や償還(換金)を行うことも可能です。(ERC1400のMUST要件として「法的措置や資金回収のための強制的にトークンを転送することができる」が掲げられている部分と対応します)

取引制限
ERC1400ではトークンの所有者の権限や取引制限をかけることができ、例えば許可された人しか取引ができないなどの制限を付加できます。

ConsenSysが実装したERC20とERC1400の両方を継承したコントラクト(ERC1400ERC20)ではホワイトリストを導入しており、認可されたアドレスのみが取引を行うことができます。

画像3

以上の様な認証メソッドを用いることによって、適格投資家のみが購入できるトークンであったり、KYC済みのユーザーであれば誰でもが購入可能などの区別が行いやすくなります。

まとめ

今回はERC1400についてまとめました。ERC1400には下記の様な特徴があります。

1. トークンがパーティションと呼ばれる金融商品をリスクや利回り等の条件によって分けた区分によって分けられている
2. 発行済トークンの償還が可能(償還の中で換金を行う場合、別のコントラクトでETHが換金される仕組みや、オフチェーンでプログラムを作成する必要がある)
3. ホワイトリスト等を用いてオフチェーンでのユーザー認証をオンチェーンに反映させることができる

他にも、ERC1644という規格ではコントローラ(規制当局やトランスファーエージェント)によるトークンの強制転送や償還(換金)を規定しています。

まだ一般にはセキュリティトークンという概念はあまり浸透していませんが、セキュリティトークンを扱うプラットフォームを開発しているアメリカ大手のSecuritizeがBUIDLを子会社化するなど、日本でも今後セキュリティトークンの取引が活発になっていくと予想されます。ERC20を使ったICOが流行った様にERC1400を使ったセキュリティトークンが多く出てくると考えられるので、今後の動向に注目です。

エンジニアがブロックチェーンを見るマガジンでは、単純なプロジェクトやプロダクトの紹介だけでなく、その裏で何が起きているかを技術視点、ビジネス視点から紹介していこうと思いますので、是非フォローお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?