日下部晶

教育社会学・歴史社会学を研究しつつ、小説ともエッセーとも違う何かを表せたらと思っていま…

日下部晶

教育社会学・歴史社会学を研究しつつ、小説ともエッセーとも違う何かを表せたらと思っています。庄野潤三と須賀敦子が好きです。

最近の記事

野鴨の記

 冬の朝。池のほとりで、野鴨の群れが草を食んでいる。その様子を見て、「僕は生きられる」と思った。なぜだろう?僕は本来鳥類は好かないはずなのに。でも、草を食む様子を見ると、身体の細胞から生きる力がぷちぷちと弾け出す気がする。弾け出た生きる力がいったいどこへ向かうのか。僕には見当がつかない。気がつくと、コートが濡れていた。まさか32歳にもなって野鴨で涙を流すとは。そのようなナイーブさを僕はとうに捨ててきたはずなのだ。それなのに。住居を持たない宿なしであり、あることがきっかけで発覚

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