見出し画像

命の価値は結構差がありそう

 旅行はいろんなものに出会える。今回の旅行は突発的。小説の影響力は強大である。それは人ぞれぞれの感覚だろう。道ゆく人間にさほど変わりはない。鈍行で6時間ぐらい移動しただけだ。風や植物が違えば漂う空気も異なる。

 朝は人が少なくて,歩いている人の歩みは速い。そんなに急いで嫌な労働へ向かうのだ。私は旅行者,計画はさほどない。そもそもこんなに早起きする必要もなかった。目が覚めてしまったのだ。
 そこには1枚の落ち葉があった。踏んでしまっても問題ないようなありふれた落ち葉。それは落ち葉に擬態した蛾であったのだ。私は危うく踏み潰すところであった。何を感じたのだろう。うまく避けて先に進んだ。
 そんなところにいたらやがて踏み潰されてしまう。私はその辺の落ち葉に乗せて,踏まれにくい街路樹の根元へ移した。もうだいぶ弱っていたみたいだ。

 美術館の庭にも迷い込んでいた。今度は落ち葉に擬態した蝶だ。コンクリートの上に1匹。羽を広げると鮮やかな色が見える。閉じていると落ち葉にしか見えないのだ。
 比較的目立つ存在をそのままにして私はその場を去った。それでも気になって戻ると踏み潰されていた。私の前で羽を動かし,その変化を見せてくれた。今は普通の枯葉とも見分けのつかないぺしゃんこに潰れたものになっていた。

 その日私は,1つの命を救い,一つの命を救えずに,自分は生き続けた。あの時移動させておけば踏み潰されなかっただろう。しかし,この後悔はあくまでも私の目の届く範囲での出来事。助けた蛾も弱っていた。私が助けた直後に鳥に食べられたかもしれない。
 帰り道,街路樹の根元へに蛾はいなかった。助け出してから数時間。生き物は移動する。もしくは食べられた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?