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階段
初めて見たときには気がつかなかった。でも,薄々感じていたんだ。死にたがっていることを。死にたいっていうより,生きたくないって感じ。仕事に行きたくなければ,仕事を辞めればいい。学校に行きたくなければ,学校を辞めればいい。人間として生きたくなければ,死ぬしかないんだ。だから,死にたいっていうより,生きたくない。そんな感じはうっすら伝わってきていたんだ。昔から付き合いのある人は,もっと確信的に感じていたんだろうな。
どんな人生だったんだろうか。その一片しか知らない。小さい小さいかけら。死の方向を向いているのを知ったのは偶然だった。それを知った時,ぼくには何もできないことがわかった。人間の無力さに気がつく。価値観の違いにも気がつく。自分の世界の狭さに気がつく。
ただ見ていることしかできなかった。関わりは無意味だった。そう思った。今でもそう思っている。助けなんか求めてないし,この世界では助からないのだ。舞台から降りていくように。
ステージの友達は歌っていた。話していた。スキップしていったと。ぼくもそんな感じがした。
気がついていたんだ,数日前から。もう行っちゃったじゃないかって。かなり本気な感じがしていたし。いつも本気だったんだろうけど。何か気合が違った。そう感じていた。おかしな話だけど。
ぼくにとってはいろんなことが重なりに重なった。そんなことを察したのだろうか。友達は「強く生きていこうな」と,ぼくに向かって発したのだ。
人間同士は,芯のところまでは分かり合えない。そんなことだけが共通してわかっている。所詮細胞の集まり。電気信号の変換。偶然同じ空間に現れた存在。無力さを実感してもしなくても,存在は続いていく。
親はそろそろ,自分の子供をおもちゃにするのをやめるべきだ。本当はもう気がついているんだろう。自分自身が原因の一つであったこと。その部屋を見たのだから。
今まで知らなかった世界に出会ったぼくは,その価値観を持ったまま,その価値観に出会う前の世界に戻っていくんだ。もう何もできないことを知りながら,当時の地獄へ。唯の傍観者として,残りの世界の移り変わりを眺めていく。面白いかもね。
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