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【大阪都構想】財調財源の税収減で特別区は収支不足を埋められなくなる~東京23区との違いは〝超強力なスーパー都心区〟の有無

 東京都千代田区は東京23区の中でも突出して異様な自治体である。人口が少ないくせに、財政力が極端に強い。今のところ「都の区」でしかないので、都心の法人税収入は都が課税し、23区に財政調整交付金として配分されているために、さほど目立たないが、千代田区が本当に一般市として独立したら、おそらくベーシックインカムなど簡単に実現できるのではないか。

 小池知事が2016年に都知事選に立候補したとき、自民党都連を〝ブラックボックス〟と批判し、その都連を牛耳る人物として、〝都議会のドン〟を挙げた。この方は、千代田区選出の自民党都議である。人口は少ないから定数は1。当然、期数を重ねるごとに強い権力を持つ。

 誤解してほしくないが、ドンを悪く言うつもりはない。彼が〝ドン〟としての役割を担ったのには、当時の石原都政特有の事情があったからだ。そのことは、ここでは置いておく。

 霞が関がある。国会がある。皇居がある。丸の内がある。東京駅がある。靖国神社がある。ドンがいる。そんなスペシャルな自治体だから、カネやモノが集積し、権力も集中する。

【千代田区】区民全員に12万円を配る

 そんな千代田区が千代田区にしかできない、針が振り切れた施策を行う。新型コロナウイルス感染症対策として全区民に12万円を配るのだ。しかも、今現在、生きている区民だけではない。今年4月27日時点で住民基本台帳に登録されている区民に加え、来年4月1日までに生まれた子も対象となる。驚くべきことに、まだ生まれてきていない子にまで12万円を配るのである。

 国の特別定額給付金の10万円が配り終えたばかりだが、それよりも高額な給付金をばらまくのである。似たように独自の給付金を配る自治体は他にもあるが、これだけとんがった給付金は千代田区だけであろう。

 こんな話を聞くと、さすが、東京23区は財政調整交付金がもらえるだけのことはあると思うだろう。だが、千代田区に交付されている財調交付金の交付額、2019年度であれば不交付区の港区、交付額最下位の渋谷区に次ぐ少なさである。当たり前の話だが、区民全員に給付金を配るお金など、財調では算定してもらえない。もちろん、国や都が補助金をくれるわけでもない。自分で財源を捻出しなければならない。

 歳入の根幹である特別区税は、千代田区が198億1619万円(2018年度決算)である。23区では周辺に位置する練馬区は、673億5713万円(同)である。これだけ見れば、練馬区が千代田区の3.4倍の歳入を持っている。ところが、人口は練馬区が75万人を抱えているのに対して、千代田区は6万人台である。人口1人当たりに換算すると、千代田区民は約31万円に対して、練馬区民は約9万円しか払っていないことになる。

 念のため断っておくが、この特別区税には、法人税収入(法人税市町村分)は含まれていない。法人税は都が課税しているので、千代田区内からいくらの法人税市町村分が出ているのかは計算しようがないが、あの日本有数の高層ビル群や繁華街から想像を絶する税収が都に入っていることは容易に想像できるだろう。そして、その税収の大半は千代田区には配分されず、23区全体に配分されている。

 2019年度に千代田区に交付された財調交付金は約31億円。一方、練馬区には約861億円の財調交付金が配分されているのだ。

 つまるところ、千代田区民は12万円を区から返してもらえるくらいには、税金を払っているということだ。

 この給付金の財源は、財政調整基金から約80億円を充てる。2018年度決算の資料を見ると、千代田区の財調基金残高は457億円だから、80億円程度ではビクともしない。というか、特定目的基金も含めた総額は1千億円を超えるから、1年間の税収がゼロになっても、千代田区は破綻しないというほどの〝スーパー自治体〟なのである。

 そんなこと言っても、人口減少社会が到来すれば、税収も減って、これまでのようにはいかないんじゃないの?

 地方の方は、そう思う方もいるだろう。

 ところが、2016年に千代田区が策定した人口ビジョンでは、将来人口について、こんな推計を出している。

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 最も悲観的なシナリオでも、当分は人口が増加し続けるのである。

 東京都が全国一の富裕団体で、他の自治体からは抜きん出たトップクラスの財政力を誇っているのは、このスーパー都心区の存在は欠かせない。もちろん、日本という国の財政を支えているのも、彼らである。石原知事の言葉を借りれば、日本の心臓部である。ここで血管が詰まると、日本全体が沈没してしまうのだ。当然のことながら、大阪府市に配分されている地方交付税も、東京のスーパー都心区のおこぼれだと思ってほしい。維新信者は、人口や財政の格差がどうのと、disっている場合ではない。神棚に石川雅己区長の御真影でも置いて、毎晩お参りしてほしい(嘘)

 当然、そんなスーパー自治体が他と合併しようだとか、23区を再編しようだとか、言うわけがない。区民が聞けば、一笑に付すのではないか。

【中央区】強気の人口推計で20万都市に

 もう一つ、スーパー都心区を挙げると、東京都中央区がある。お隣の千代田区と比べると、まだ人口もそれなりに多くて、普通の自治体だと言えるが、ここも区の人口推計を見ると、エラいことになっている。

 下の資料は、2020年1月に推計した将来人口の見通しである。

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この資料で興味深いのは、地域別の人口推計である。

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 月島地域といえば、皆さん、ご存知の通り、もんじゃ焼きで有名な「月島」がある地域だ。驚くべきことに、現在7万6000人の人口である月島地域は、2026年には10万人を超える。大きな要因の一つは、晴海にある東京オリンピック・パラリンピックの選手村に五輪開催後にできる高層マンション群である。この他にも、月島地域にはタワーマンションの開発ラッシュが続いていて、全国的な人口減少を横目にぐんぐんと人口が増えていく。

 中央区の人口はバブル経済による地価の高騰で1997年に7万人まで落ち込んだ。現在では、月島地域だけで7万人を超える人口を抱えている。

 今回、都構想では大阪にも「中央区」が誕生するそうだ。それは別に構わないが、あなた方が当てにしている地方交付税の財源の一部は、こういう都心区から沸いているという事実を、じっくりと噛みしめていただきたい。中央区が丁寧に公文書で、「違う名前にしてね」とお願いしているのに対して、維新信者が限りない罵声を浴びせていたが、70年以上の歴史を経て壮大な発展を遂げようとしているスーパー自治体に対して、随分失礼なものだ。

【港区】23区唯一の財調交付金「不交付団体」

 もう一つ、スーパー都心区を紹介しておく。

 東京都港区は、23区では唯一、財政調整交付金の不交付区である。つまり、法人市民税や固定資産税などがなくても、区財政が維持されているということだ。

 ここの人口ビジョンもなかなか強気である。

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 2035年には人口が30万人に達し、ピークを迎えるという試算だ。千代田区や中央区と比べると随分と遠慮しているようにも感じるが、やはりスーパー都心区は衰えを知らない。

 千代田区、中央区、港区の三つのスーパー都心区の総人口を合わせると、ちょうど50万人弱である。来年、再来年には50万人を突破するだろう。つまり、一般市であれば、中核市の要件を得ることになる。この3区から、いったいいくらの法人税市町村分が湧き出しているのかは分からないが、仮に一つの中核市として独立すれば、国家的な規模の富裕自治体が誕生するであろう。

大阪市の「財調財源」が減収に

 さて、長かったが、これは今回の前置きである。ここまで読んでいただいた方は少ないだろう。もう少しお付き合いいただきたい。

 大阪市が9月9日に、2021年度予算編成に向けた財政収支を明らかにしている。新聞各紙が報じ、大阪市の公式サイトにも資料があった。

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 今年のコロナ禍による経済の落ち込みで来年度の税収は落ちることは間違いない。しかも、新型コロナウイルスの感染拡大が終息しなければ、来年も今年と同じように感染防止対策や経済対策を行わざるを得ない。税収が落ち込み、需要が増加する。よって、来年度の収支不足が637億円に達すると見込んでいるわけだ。

 こうした来年度予算編成に向けた財政収支では、財政当局はとことん危機感をあおるものだ。次年度の収入が減ることが確実視されていれば、なおさらのことである。というのも、各部局はこれまで行っていた事業を次年度も継続し、お役人の仕事を確保しないといけない。あれもこれもやれと、予算要求する。だから、それが分かっている財政当局は最初から危機感をあおって現場を萎縮させようとするのだ。これは、大阪市に限ったことではない。

 ただ、新型コロナウイルスの感染拡大はこれから何十年も続くものではない。それによる経済の落ち込みは、東京も大阪も変わらないだろう。

 問題は、この落ち込みが一時的なものか、それとも継続するものなのかということだ。

 とりわけ、市税が前年度と比較して496億円も落ち込んでいる点が気になる。法人市民税(法人割)は36.9%の減である。これは、都区制度が導入された場合の財調財源の一つである。国による新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制改正の影響で、固定資産税が123億円減収となる。これも、財調財源の一つである。

 大阪市の人口ビジョンを見てみよう。

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 先ほどのスーパー都心区の強気の推計と比較すると興味深い。大阪市の人口は今年276万人で、既にピークを迎えている。このまま推移すれば、2045年には250万人にまで落ち込む。大阪は、いつも維新信者が「発展してる」「松井市長すげー!」と礼賛しているので、てっきりさぞや大発展しているかと思ったいた。ずっとこういう陰の部分が見えなかったのだが、今がピークだとは意外だった。これは、まだ当面人口が増える見通しの東京23区とは大きな違いだろう。

 しかも、現在の出生率増加と転入超過傾向を維持したとしても、人口は微増にとどまっていて、ほぼ横ばいである。

 人口の増減は直接、財調財源に関係しないが、四つの特別区の特別区税の収支に大きく影響する。つまり、収入が減れば、財調交付金に頼らなければならないが、財調財源も前述のように落ち込むようであれば、需要に対する収入の不足を埋められなくなってしまう。特別区が財源不足に陥るのだ。

財調財源が不足すると〝身を切る改革〟が待っている

 結論から言えば、特別区が財源不足に陥れば、各特別区で維新お得意の〝身を切る改革〟をするしかない。

 しかし、それを言っちゃあ、おしまいである。都構想は、大阪市を廃止して、特別区に移行しても、財源不足が生じないように制度設計したという前提があるからだ。特別区に移行した途端、〝身を切る改革〟なんて言い出したら、公明党が激怒するのではないか。

 ここでは、財調財源が税収不足に陥る危険性について指摘しておきたい。

 大阪における財調の配分割合を思い出していただきたい。

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 大阪府が21.3%、特別区が78.7%。これは、基礎的自治体としての需要をシンプルに積み上げて、残りを大阪府に充てた結果である。財調財源が減収となると、何が起きるのか。

 仮にこの配分割合を変えないという前提に立つと、大阪府の取り分と、四つの特別区への交付金が減ることになる。これでは、現実の需要が収入を上回ってしまうので、各特別区が財源不足対策を行わなければなくなる。つまり、特別区誕生早々、いきなり〝身を切る改革〟を断行しなければならない。

 仮に特別区側の基準財政需要額が変わらないと想定すると、大阪府の取り分が減っていく。単純計算すれば、減収幅が2割超あると、府側の取り分はなくなってしまう。今度は大阪府の財政が持たないだろう。

地方交付税頼みは危険な発想

 松井一郎市長は、地方交付税での補塡を当てにしているようだ。大阪の財政調整制度では大阪府が地方交付税を受け取り、財調財源として各区に配る仕組みだ。だから、大阪市域の税収が落ち込んでも、国がカバーしてくれるというのは、期待としてはあるだろう。東京は地方交付税の不交付団体なので、この点は期待できない。

 しかし、地方交付税頼みというのは危険だ。地方交付税の財源は無限にあるわけではない。経済の低迷は国全体の問題だから、大阪の税収が減れば、国の税収も減るだろう。当然、足りなくなれば、地方の基準財政需要額の満額を補塡することなど不可能である。国は、交付金の額を減らしたり、足りない分を臨時財政対策債で埋めようとする。要するに、自治体に対して借金してもいいよと認めてしまうのである。起債はハード事業にしか認められないが、この場合の起債はシンプルに足らず米を借金で埋めることができる。

 とはいえ、借金は借金だ。償還経費は地方交付税の需要として認められるが、そういう措置が続けば続くほど、借金の額は膨らんでいく。地方財政を疲弊させるのだ。

 おそらく、地方交付税の市町村分に臨時財政対策債が含まれていれば、大阪府が借金して、新4区に財調交付金を配分することになる。それが果たして財政調整として正常なのだろうか。かといって、特別区が空交付金を算定して、借金で埋め合わせるわけにもいくまい。

↑この部分、調べてみた。そしたら、総務省は臨時財政対策債の発行は特別区が行うという見解らしい。つまり、地方交付税の普通交付金は大阪府に入り、4区に配分されるが、臨時財政対策債の発行可能額は各特別区に割り振られる。だから、地方交付税の財源不足が出ると、特別区は借金をして賄わなければならなくなる(もちろん、借金せずに〝身を切る改革〟をすることも可能である)。【追記2020年9月21日】

 ちなみに、東京都の場合、経済低迷による減収を理由とした配分割合の変更はまずあり得ない。年度末に財調財源が当初フレームよりも減収となると、財政調整交付金の算定根拠となる需要を削ることで、配分割合の範囲に収める。

 2000年都区制度改革前、まだ特別区が東京都の内部団体でしかない時代は、財源が足りない分の需要を翌年度に繰り延べるか、足りない財源を都の一般会計から借り入れるという措置をしていた。しかし、これは減収のツケを延々と未来に先送りするばかりで、繰り延べ額や借入額が膨大になってしまった。これらの先送りした需要や借り入れは、2000年都区制度改革でほとんど復活することなく、うやむやにされてしまいました。

 では、大阪の場合はどうなるのか。これだけ急激に経済が落ち込むことは、これまでの都構想の検討経過ではあまり想定できなかったと思う。しかし、住民投票の日時が確定し、賛成多数になれば2025年の移行が確実になっている中で、仮に大きな減収の中で特別区に移行するのであれば、どのような対応をするのかを、今の段階からシミュレーションし、住民に対して示しておくべきだ。

 大阪市の人口ビジョンを見て感じるのは、仮にも「副首都」を標榜したいのであれば、それに見合った経済都市を大阪の都心につくらなければならないということだ。都区制度を導入するのであれば、四つの特別区が均等ある発展をする必要などない。ブッチギリでカネが湧き出してくるスーパー自治体が必要だ。もしくは、特別区が四つであれば、その中にとてつもなく発展した地域を創出する。スーパー都心区がないと、特別区の需要をカバーできる税収を確保できないのだ。

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 大阪市人口ビジョンでも、周辺区の人口の落ち込みが堅調であることが分かる。この大幅な落ち込みを、現北区や現中央区などの経済力の強い地域がカバーしなければならない。

 特別区全体を支える超強力なスーパー都心区がない。これが東京と大阪の大きな違いである。


 



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