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来し方(2) - アジア学院の話

 アジア学院の話をもう少し続けたい。やはり、ここが原点の一つとして脳裏に深く刻まれているから。アジア学院のワークキャンプなくして、今の僕はなかった。

 ワークキャンプを主催したのはSCF(学生キリスト教友愛会)という組織。その名の通り、クリスチャンの学生をメインターゲットに活動している団体で、そこには都内近郊の様々な教会に連なる若者が集まって、ワークキャンプ以外にも色々なことをやっていた。

 キャンプでは、色々な農作業を体験する。例えば、鶏の首を絞めたり、堆肥の切り替えしをしたり、しいたけのホダ木に菌を打ち込んだり。チョアと呼ばれる朝夕のルーティンワークでは牛の乳搾りやバター作りもやった。

 しかし、一番の衝撃はそこではなかった。

 夜のセッションでは、研修に来ている各国の人たちとの交流がある。彼らがどんな思いでわざわざ日本まで来て農業や農村指導について学ぶのか。  ビルマから来ている方の話を聞いた。

「政府の批判をすると殺されるかもしれないので、ここでそういうことは言えない」

 彼は冒頭でこう言ったのだ。

 今いるこの場所は、世界でもかなり安全な場所であることは疑いない。少なくとも、軍事政権に密告する人はいない。にもかかわらず、発言の一つ一つに気を張らねばならない緊張感の中で生きており、うっかり口を滑らせれば、政府から命を狙われるかもしれないという危機感を抱いて過ごす毎日。目の前にいる人が、そういう人生を生きているという事実に打ちのめされた。

 世界のことを自分は何も知らない。愕然とした。なんとのほほんと生きてきたのだろうか。そして、自分の目でもっと色々見たい、と熱望するようになった。

 キャンパーも個性豊かな面々が揃っていた。一言で言えば、「世間の常識、何それ?」と既存にとらわれない自由な発想で我が道を開拓していく逞しさに溢れた人たち。出会った人は今でもいい友人だ。
 彼らの話は、また何れどこかでする機会があるだろう。長くなるからね。

 そんなわけで、それ以降大学を卒業するまで、春夏開催のワークキャンプには欠かさず参加した。

 また、それ以外にも機会があればアジア学院を訪れるようにもなった。収穫感謝祭というイベントを手伝いに行った時には、レチョンと呼ばれる豚の丸焼きを作るために豚を串刺しにするという貴重な経験もした。
 それを一晩中、炭火の上でぐるぐる回して焼いていくのだ。

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