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【新聞の話】3分読

俺は治安の悪い町に住んでいる。
この街は飯の種に困らないからだ。

毎日毎日どこかしこで犯罪が起きるので紙面を埋めるのに困ったことはない。事件の詳細をみるために飛ぶようによく売れる。会社も立派だ。

しかし、ある時からぱったりと犯罪が減った。
何かがおかしい…
たまたまかと思ったが3日、5日、1週間経っても事件が起こらない。
どんなに町を歩いてもただただ平穏が広がっている。

「こんにちはぁ」
いつも通りネタ探しに歩いていると、不意に花屋の女主人に話しかけられ驚いた。
「こんにちは。どうです?売れてますか?」
情報収集も兼ねて聞いてみる。
「えぇえぇ!最近は特に平和だからか、花束が少し。まぁお葬式用とかお見舞いのお花なんかは減りましたけど…まぁ…喜ばしいことです…よね。」
「それは複雑だ、それにしても近頃は何で急に平和になったんでしょうか?」
「さぁ…噂には夜にパトロールしてる何者かが居るんじゃないかって。私は見たこと無いですけど、そのお陰じゃないかって噂ですよ。」
「なるほど、そんなことが…」

花屋に別れを告げ、再び街を歩く。
会社に戻るため電車に乗る。
ふと、ライバル新聞社の吊り下げが目に入った。

『闇夜の番犬が!!我々の平和を守る!!』


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場末のバーで男が飲んでいる。
冴えない中年男だ、仕事終わりなのか薄い髪はペッタリ張り付いているし毛髪にはふけが混じっており、お腹はだらしなくベルトにのっている。
彼が上機嫌に酒を飲んでいると隣に1人の男が座ってきた。

メガネをかけた白髪交じりの男は「こんばんは、楽しそうに飲まれてますな。」と声をかけてきた。
「こんばんは、いや…良いことがあったもので」
男はへへ。と照れ臭そうに笑った。
「へぇ、良いことですか。」
「ええ私の功績がようやく称えられて、嬉しいんです。ふふ。」
男はうっとり目を細める。
「なるほど、それはめでたい。」
2人はカチンとグラスを合わせ、お互いに語り合った。


「な!!!何をするんだ!やめてくれ!!」
中年の男は飲食店裏のごみ溜めに突き飛ばされる。自分はこの男と2件目の飲み屋に向かおうとしていた筈ではなかったのか。

さっきまでの酔いは冷めてひんやりとした恐怖が心臓を早めさせる。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。」
メガネを直しながら男はため息をついた。
「何でこんな事をするんだ!!」
「何で?分かんないのか?」
「わ。私は何も知らない…!!こんな事をしていると闇夜の番犬が来るぞ!!」
ははっ。白髪交じりの男から乾いた笑いが漏れて懐から鋭い金属を取り出す。

中年は脂汗をだらだら流しごみ溜めに尻餅をついたような格好だ。あまりの恐怖で口角が上がり、歯がガチガチとせわしなく鳴る。
「なぁ。俺がこの町に住む理由が分かるか?」
ナイフの先を遊ばせながら言葉を続けた
「この街は事件が多くて飯の種に困らないからだ。」

路地の向こうに見える花屋を指差す。
「あの花屋は葬式の花代で金を稼いでるし、向こうの銀行はごろつきに金を貸す事で飯を喰ってるし、それで用心棒を雇ってる。さっきのバーは奴らのたまり場で金になる。わかるか?ここじゃ平和なんて求められてないんだよ。」
ぶるぶると肉付きの良い頬が揺れる
「な、何で俺にそんなこと言うんだよ!!!」
頬の肉を揺らして必死の形相で叫ぶと脂汗が散った。
「あ?まだしらばっくれんのかお前。」
白髪の男はスマホの画面を突きつける。
でっぷりと太った男が不思議な力で変身し、夜道をパトロールする動画が早送りで再生された。
「何が闇夜の番犬だ、この偽善者が。」
「ぎ、偽善者だと!?」
吐き捨てるように言葉が紡がれる。
「いいか。お前が今後も偽善を続けるならこの動画は大々的に公表する、もし俺が不審な死を遂げてもこの記事は公表される。」
「それが何だって言うんだ。別に正体がばれたって俺はー」
「俺に突き飛ばされてガタガタ震えてるくらいだ。悪くて怖いお兄さん達に、お前自身は勝てるか??それともビビって永遠に変身したまま生きるか?」
ガンッとペール缶を蹴り飛ばす。
「分かったら2度と余計な事すんじゃねーぞ。」
吐き捨てるように言うとそのまま男は立ち去っていった。

翌日から、再び町は治安が悪くなった。
用心棒が店を守り毎日何かしらの事件が起こる。しかし、ここではそれで良い。
この街に住むものは皆その覚悟があるし、嫌なら出ていく。
無責任な正義はこの街の経済活動を殺すのと同じことなのだから。

今日も新聞は飛ぶように売れている。







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