『ペトルーニャに祝福を』

テオナ・ストゥルガル・ミテフスカという女性監督の映画『ペトルーニャに祝福を』を岩波ホールで観た。
映画の感想の前に映画館のこと。
本当に久しぶりの岩波ホールだった。
劇場の中にある小さめのスクリーン、音響もガンガン響かず、更に観客も年配の人が多くて落ち着くクラシックな映画館。
若い頃結構来たな。昔は名画や一般ウケはしないようなものを観ることも多かったから、私の定番の映画館だった。
いつからか映画を映画館で見ることがめっきり減ってしまったが、そのうちシネコンがポコポコ出始め再び足を運ぶことになった。一般にウケない映画がかかるところは・・激減してしまったようだ。自分が観なくなっただけかもしれない。  

さてペトルーニャ。
舞台は北マケドニア。それはどこなのかくらい前もって調べておくべきだった。
観ている間中(ここはどこだ?どこらへん?ロシア語っぽいかな、東欧?)という疑問がずっとぐるぐるしていた。
その、国名を聞いたことがある、くらいのその国は、なんというか・・さびれている、というのが第一印象。
不況らしく、ぺトルーニャも就職したことがないという。
32歳で付き合っている男性もおらず、収入もない。両親と同居で母親がもってきた就職の面接にいやいや出向く。
一瞬でもペトルーニャになってみたら、クサクサした気分にすぐなれる。
彼女の親友のブティックも相当やばい。下北沢の場末の服屋がぽつんと一軒建っている。そういう環境。
そのうんざりする毎日に、ちょっとしたアクシデントが起こる。
その村には教会の司祭が川に投げ落とす十字架を、ヨーイドンで奪い合うという男性限定の祭りがある。ゲットすると幸運に恵まれる、という・・
世界中どこにでもあるような祭り。日本でいったら神社までのかけっこで”福男”を決める、というのがあるけど、そんなノリの祭りだ。
ペトルーニャが面接失敗(母親からは年齢を25歳であると詐称しろと言われ、面接官からは42歳に見えると言われ、、むむむ)のあとのクサクサ気分で、偶然にその祭りに遭遇し、冷たい川に飛び込み(気持ちはわかる)十字架を手にする。
暗黒中世都市マケドニア(劇中のセリフです)では、ペトルーニャ、女性に十字架を取られたもんで、半裸の男たちが激怒、警察沙汰になってしまう。

この事件を取材するTVレポーターが面白い。
カメラマンと二人で現地の取材をするのだが、彼女としてはこの事件を何とか男尊女卑の問題、というストーリーに仕立てたい。(前述の”暗黒中世都市”も彼女のセリフ)
だが村の人たちの関心は低い。映画館で見ている私たちも(イヤー、これよりもっと重要な問題山積みでしょ、マケドニアは)と皆思う。
番組の制作会社からもニュースにする価値なしと判断され、戻るように言われる。
カメラマン「安月給の身になってくれ」
レポーター「もうなってる」
というやりとりにクスッとなるが、仕事があったとしても生活は苦しいのだ。
ペトルーニャは警察に連行されるが、頑として十字架を渡そうとはしない。警察からも司祭からも嫌味暴言を言われ続けるが、その人達を睨みつけ時に不敵な笑みを浮かべ応戦する。
外ではレポーターがなんとかペトルーニャにインタビューしようと粘っている。何故かこの取材を放送することで名を挙げようとしているのだ。・・ムリでしょ。
十字架を女に取られてしまった男たちがちょっとした暴動を起こすが、全国ニュースにはなりそうもない。
それだけの話なのだが、マケドニアの皆が抱えているであろうやるせないモヤモヤがざらりとした感触で残る。
そんなにスカッとする映画ではないが、ほんのちょっと楽しい気分で終わる。

観終わって即検索。
北マケドニア共和国、首都スコピエ。旧ユーゴスラビア連邦の一部。
ギリシアのすぐ北に位置し、公用語が6つもある。歴史は古く、ローマ帝国の支配下になり・・とある。
一本の映画を観ることでその舞台の国に思いを馳せる事にもなる。
これも映画の効用だ。

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