6月のある朝

その日、朝の瞑想を終えyoutube法話をみようとした時スマホの通知が目に入る。ワカナさんだ。
夫・・亡・・葬・・という文字が見えてどきっとする。
ワカナさんの夫が亡くなったのだ、あとで連絡しよう。なんと言おう?

だがその通知画面からメッセージに移動して固まる。亡くなったのはワカナさん本人で、夫からメッセージが送られてきたのだった。


このメールは、本人ではなく夫が発信しております

実は今月10日に亡くなり15日に家族葬を済ませました


それだけの文章だったが、意味がなかなか理解できず何度も読み返した。
亡くなったのは10日前のことらしい。
二行目の主語は誰?こういう時も省略するものなのか。

ワカナさんの目を閉じた横顔が浮かぶ。
そんな顔を見たことはなかったが。

そのあと法話を聞いたが頭に入ってこず、何度も再生中のバーの点を戻しては聞き直す、を繰り返して結局諦めた。

その後夫が起きてきたのでそのことを告げると「えっ」と短く声がもれ、顔がみるみるこわばった。いくつも歳をとったような顔になる。
夫は彼女とは30年以上前に1度会っただけなのに、ことあるごとに私が彼女の話をしていたから、何度も会っている気がしていたのか。

私はメールを読んだ時こんな顔をしただろうか。夫のこわばった顔はそれを見る私がいたからなのか。

私も夫もそれぞれショックを受けたが普通に朝ご飯を食べ、テレビのニュースを見、それに対して感想を言い合い、アナウンサーにツッコミを入れた。


その日私は2時からヨガを申し込んでいたので、その前に一時間くらいの予定で新宿伊勢丹で洋服を見てからヨガスタジオのある原宿に向かう、という決めていた予定を実行した。

都合よく思っていたようなブラウスが見つかり急いで購入する。一時間の予定は45分くらいになっていたから、そこからはずっと小走り。新宿駅まで小走りで行き、原宿に着いてからはもっと急いだ。
なんと暑いのだろう。6月なのに真夏並みの暑さだ。10日前は・・こんなに暑くはなく雨だったかもしれない。


汗だくになったヨガのクラスの帰り道でスマホを確認すると、ワカナさんの夫から同じ文面でメッセージが届いていた。

ただ冒頭に「再送します 要返信」とあった。

これは何か事務的に必要な事なのかもしれない。そんな手続きがあるのか聞いたことはないが、そもそもこんな手段で知り合いが亡くなったことを知らせられるのは初めてのことだ。向こうもそうなんじゃないかと思う。

お悔やみの文を入力する。
どういう経緯だったのかを聞く文言を考えてみたが、やめた。

「そんなことあったんだ、それで死んじゃったんだね。大変だったね」と本人と語れるわけでもないのだ。

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