【森の家②】〜限界集落に住を求めて〜
八月の昼下がり、古い民家の玄関先に雑種犬が腰をおろしている。犬はくつろいでいるが、その鼻は家の前の森から漂う複雑な匂いを嗅ぎ取っている。その耳は辺りに広がる山々から雑多な音を拾い続ける。日に数回だけ、集落の人や郵便屋さんが近くを通りがかったりすると、首を伸ばし、耳を立て、そちらの様子をじっとうかがう。
犬は時々、どこかへ出かける。近所の森の腐葉土の下に小さな獲物を見つけに行ったか、裏の藪のミツバチの巣箱を巡回ついでに嗅ぎに行ったか、何をしてきたかは本人にしか分からない。犬は