学びの9原則
前回のnoteでは、「学びとは何か?」について書きました。
そこでは、「学びとは、意図的な変化である」という結論を出しました。
今回のnoteでは、
そもそも「学び」とは一体どういう状態なのか?
を明らかにしていきたいと思います。
人が学ぶとき、そこでは一体何が起こっているのか?
今回は、この問いに答えるために、noteを書きます。
はじめに
問い:
人が学ぶとき、そこでは一体何が起こっているのか?
それを明らかにすることは、とても難しいことです。
なぜなら、人によって「学んでいる」という感覚が異なるからです。
学びは、多様であるべきです。
おそらく人は、自分が経験してきたこと(=主観)でしか「学び」を語れないのだと思います。そのため、他者の学びを否定すべきではありませんし、自分自身の学びも尊重されるべきです。
一方で、信じていることがあります。
多様な個人の学びが共有知化されれば、あらゆる困難に立ち向かおうとしている挑戦者にとっての支えになるのではないか。変化の激しい時代に適応しながら、自らをアップデートし続けている人(学び続けている人)たちが持っている「学び」に対する経験値を集めて、共通点や特異点を見出すことによって、我々は今後どのように学ぶべきなのか?を明らかにすることができると信じています。
これは非常に有意義なことです。なぜなら、これまで明らかにできなかった「学びとはいったい何か?」を理解できるようになるからです。
DeepMind社のDemis Hassabisさんも、よく"Solve intelligence"とおっしゃいますが、DeepMindが掲げるミッションにも近いです。
人が学ぶとき、そこでは一体何が起こっているのか?
あらためて、今回のnoteでは、上記の問いへの回答を考えます。
学びの9原則
人が学ぶとき、そこには9のステップがあると思っています。
これを「学びの9原則」として定義してみました。
学びの9原則
Nine Principles of Learning
Purpose(目的・パーパス)
Priority(優先順位)
Process(学び方・プロセス)
Peer(仲間・同志)
Performance(力を発揮する機会)
Progress(前進・成長)
Portfolio(学習歴・成長歴)
Philosophy(哲学・価値観)
Pivot(方向転換)
右上からスタートする9つの原則(Principles)です。
すべて"P"からはじまる英単語のため、9Psと表現することもできそうです。
それでは、1つずつ確認していきましょう。
1. Purpose(目的・パーパス)
学びには「目的」が必要です。
目的のために、人は学び続けます。学びは、あくまで「手段」です。目的は、人の数だけ存在します。何かを取得するため、どこかに入学するため、誰かに認められるため、学びに向かう動機は、人それぞれです。まずは、自分の意志に耳を傾け、自分の言葉で「目的」を言語化してみることからはじめるとよいです。また、学び続けていると、たまに目的を忘れてしまいがちです。「わたしは一体、何のために学んでいるのか?」を定期的に振り返る機会を設けるべきだと思います。
さらに、これは一個人の学びに限った話ではありません。組織における学びにも言えることです。組織全体において、目的がわかりやすく言語化されていると、その組織は「パーパスドリブンな学び」ができるようになります。仲間同士で共通のパーパスを意識しながら、互いに学び合うための環境があることは、今の時代、あらゆる組織にとっての必須条件となるはずです。
2. Priority(優先順位)
学びには「意思決定」が重要です。
あらゆることに興味を持ち、好奇心の赴くままに学んでいくことは、尊重されるべきことです。しかしながら、一人ひとりが持つ時間とリソースは限られています。そのため、自分自身で設定した目的・パーパスに基づいて、自分はそもそも何を学ぶべきなのか?について、自分で意思決定をすることがとても重要です。
ここで大切なのは、エッセンシャル思考です。本当に重要なことに集中し、それ以外すべて捨てる。何かを選ぶことは、何かを捨てること。この優先順位づけがない状態で、次のProcessに進んでしまうと、自分にとって重要ではないことに時間と労力が奪われてしまうことになります。そのため、自分自身で優先順位をつけることが大切なのです。
また、意思決定の精度を大きく左右するのは、単に物事を比較する力ではなく、自ら定めた目的・パーパスそのものなのです。自分は何を学ぶべきなのか?について考えるとき、私たちはどうしても「今みんなが学んでいる旬なテーマ」を選択しがちです。もしそこに自分で決めた目的・パーパスがない場合、私たちの意志決定は周囲や他者の影響を大いに受けてしまいます。目的・パーパスがあること、それはすなわち、自分にとってベストな優先順位づけをするための判断軸があるということです。
3. Process(学び方・プロセス)
学びには、多様な「プロセス」が存在します。
人によって、学びの目的・パーパスが異なるように、学びのプロセスも人それぞれです。まずは、個人によって異なる、学びの多様性を受け入れることからはじめましょう。そして、学び方を考える上で最も大切なことは、自分で定めた目的・パーパスの実現のために、どんな学び方が最適なのか?を考え、選択することです。
私たちが過去に経験した学び方は、今のテクノロジーや環境変化を前提としていません。大量の情報や知識をストックしたり、検索したりすることは、もうすでにスマートフォンが見事に代替してくれるような時代です。重要なのは、目的に応じて学び方をゼロから見直し、慣れ親しんだ学び方に別れを告げ、今の自分にとって最適な学習方略を選択する姿勢を持つことです。学び方をアップデートし続けることが、あらゆる組織におけるラーニングカルチャーの一部になってほしいと願っています。
また、これまでにすでに学んだことを一旦捨て去り、まったく新しい視点から学びを再開することも重要視されています。このプロセスは、Unlearn(学習棄却)と呼ばれています。変化の激しい時代において、自らの前提知識を問い続け、必要に応じてフィルターを積極的に取り除くことからはじめて見るのがよさそうです。
4. Peer(仲間・同志)
学びには「仲間」の存在が欠かせません。
「ピア・ラーニング」という言葉があります。先生が生徒に教える、という一方向の構造ではなく、学習者同士が相互に学び合うような、双方向の構造の中での学びを意味します。仲間同士で双方向にフィードバックを与え合うことにより、たくさんの気づきや動機付けにつながり、さらなる学びのエンジンとなります。
最近は、独学でプログラミングや英語を見事に習得されている人が増えています。この「独学」という言葉の意味は、文字通り、「独りで学ぶ」という意味です。しかしながら、独学で学ぶ人も、何かしらの媒体(本・ウェブサイト・その他経験)から情報を得て、理解を深めた結果、資格試験の合格などにたどり着いていることと思います。独学を進める人にとっても、他者との関わりを通じて学びを深めるという点から、ピア(仲間・同志)の存在は重要になると思います。
最後に、仲間はどのように生まれるか?について。これまで何かを一緒に学ぶ仲間は、所属や業界の中で生まれることがほとんどでした。例えば、同じ大学を第一志望に掲げる同志、同じ学部学科の学生同士、同じ企業に同じ年に入社した同期などです。共通することは、「同じ」空間で時間をともにした人たちとの関わりが中心であるということです。(「同」という漢字がたくさん出てきています)
しかしながら、ここに不足しているのが「異質なものとの掛け合わせ」です。同質的なコミュニティーに慣れてしまうことにより、異なる考えや意見を受け入れる機会が失われ、批判性と刷新性を欠いてしまいます。自分が生きる世界ではこれまで出会ったことのない人に出会うための、学びのコミュニティーを創造する必要があると考えています。
5. Performance(力を発揮する機会)
学びには「舞台」が必要です。
スポットライトが当たる演劇の舞台、打席が回ってくる野球の公式戦など、世の中にはきまって「練習の成果を発揮する機会」が用意されています。練習は手段であって、目的は試合に勝ったり、自分が描いた理想の状態でパフォームすることにあるからです。
なぜ、力を発揮する機会があることが、そんなに重要なのでしょうか?
1つ目の理由は、日々の学びに目的意識を生み出すためです。
私たちは、「機会」を明確に意識せずに、ただ「練習」だけを繰り返してしまいがちです。つまり、何のために学ぶのか?という目的を明確に定めずに、やみくもに何かの学習をしがちだということです。その理由は「その機会で求められているパフォーマンスが明文化されていないこと」に尽きます。例えば、ある仕事において求められる職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)が明確にされていないことにより、社員一人ひとりが具体的に何を学ぶべきなのか?を判断できず、自発的な自己研鑽が生まれない、といった課題をよく見かけます。つまり、力を発揮する機会が用意されており、そこで求められるパフォーマンスが明文化されていることによって、日々の学びには目的意識が芽生えるということです。
2つ目の理由は、学びのプロセスを評価するためです。
私たちはいつも、なぜ仕事がうまくいったのか?思うように行かなかったのか?を振り返ります。その際、どのような努力(練習・学びのプロセス)を繰り返したから、どのような結果につながったのか?について分析します。つまり、力を発揮する機会があることによって、学びのプロセスが本当に良かったのか・悪かったのかを評価できるようになります。
また、組織にとって重要なことは、一人ひとりが学んだことが成果につながる場面を演出することです。つまり、「演出家」が必要だということです。役者の資質・能力を見出し、観客のために舞台をどう構成するかを明確にした上で、必要な演技へのフィードバックを行なっていく。ビジネスにおいても、1つの仕事(業務・役割)に求められるスキルや姿勢を明確にし、個人が学びを通じて仕事ができるようになったり、より良いパフォーマンスを発揮できるようになる環境を生み出すべきだと思います。可能であれば、職務記述書を作成して共有したり、仕事における”Can-do statements”があるとなお良いと思います。
6. Progress(前進・成長)
学びには「成長実感」が不可欠です。
パフォーマンスを繰り返すことにより、1ヶ月前の自分と比較して、何かが出来るようになった、わかるようになった、という感覚を持つことは大切です。なぜなら、次の学びへの動機づけになるからです。学びに向かうモチベーションを刺激する1つの要素は「前に進んでいる感覚」だと言われています。これまで自分がしてきた努力がパフォーマンスとつながった時、自分の努力を認め、自己肯定を通じて、次の学びへと進んでいきます。
ここで重要な役割を果たすのが、「アセスメント」です。
アセスメントは、学習者の力を可視化し、適切なフィードバックを返すという役割を持っています。アセスメントを通じて、学習者がどれくらい成長したのかを実感しやすくすることは、とても重要です。
「テスト」という言葉を聞くと、どうしても「成績」を付けられるというイメージを持ってしまいます。成績とは、公平な環境下で発揮されたパフォーマンスの出来具合を、客観的に示すためのものさしです。そのため、成績が持つ本質的な価値は「他者との比較ができること」です。
しかしながら、「アセスメント」という言葉から連想したいのは、成績ではなく「成長」という概念です。成長とは、個人によって異なる環境下で発揮されたパフォーマンスの出来具合を、自らの過去と比較したときに見出される、多種多様な「変化」の総称といえます。そのため、成長が持つ本質的な価値は「過去の自分との比較ができること」です。
ある時点で得た「成績」だけに固執するのではなく、過去からどれくらい「成長」したのかを定期的に観察しながら、自らのパーパスに応じて学び続ける人材をいかに育成するかが問われています。
7. Portfolio(学習歴・成長歴)
すべての学びは「蓄積」されます。
それを意図的に整理・整頓して、見やすくするかどうかは個人次第です。Performance(力を発揮する機会)を繰り返すことで、Progress(前進・成長)を実感できるようになり、それらの成長の軌跡が積み重なることにより、個人の成長を記録したPortfolio(学習歴・成長歴)が出来上がります。このポートフォリオそのものが、個人の資質・能力や潜在能力について、対外的に代弁する「職務経歴書」のような存在になっていくことでしょう。
このポートフォリオの特徴は、学歴ではなく、「学習歴」が記されていることです。「○○大学で学んだ」という事実のみで終わらず、「自ら定めたパーパスを実現するために、優先順位をつけ、仲間とともに学習を進め、パフォーマンスを発揮した結果、どのようなインパクトを残し、どのような成長があったのか」について、わかりやすく記録したものとなります。つまり、ここまでの6つのPが集約されたものです。そして、このポートフォリオの中身に基づいて、新たなPriority(学びの優先順位づけ)がなされます。なぜなら、成長を繰り返すことで、何を学ぶべきか?に関する優先度も同じく変化するからです。
このポートフォリオは、近い未来には、ブロックチェーン上で管理されていくようになるかと思います。(すでにサービスをローンチしているスタートアップも存在します)
8. Philosophy(哲学、価値観)
学びを通じて、私たちの「価値観」は揺さぶられます。
自らの学びを通じて、さまざまな失敗や試行錯誤を経験し、新たな成長体験を獲得していきます。このような成長プロセスは、一個人として、何を重要だと考えるのか?意思決定のときに何を判断軸とするのか?といった、その人の哲学観や価値観にも大きく影響を与えます。そのため、このPhilosophy(哲学・価値観)というセクションには、Progress(前進・成長)から辿り着くような設計になっています。学びの結果、私たちが得られるものは、短期的な実質メリットです。それと同時に、中長期的な視点で考えると、思考の軸、判断基準、正義観(感)などを得ることができるのだと思います。
9. Pivot(方向転換)
学びを通じて、私たちは自分の人生の「舵」を取ります。
学びによって生まれた新たな哲学や価値観が、意思決定に大きな影響を及ぼします。Philosophy(哲学・価値観)が揺さぶられる経験そのものは、自らのPurpose(目的・パーパス)にも揺さぶりをかける存在となります。
そのため、新たにPivot(方向転換)することにより、自分の中に新たなPurpose(目的)が芽生えます。自分が本当に実現したいことは果たして何なのか?を自問自答する中で、その場、その瞬間で下した意思決定が、今の自分を形成します。そこでPivot(方向転換)をするも、しないも、すべて自分次第です。
ここで最も大切なのは、他者からの外圧的なプレッシャーや恣意的なコントロールによるものではなく、自分自身のPhilosophy(哲学・価値観)やPortfolio(学習歴・成長歴)に基づいて、自らのPivot(方向転換)に関わる意思決定をしたかどうか、です。
以上が、「学びの9原則(Nine Principles of Learning)」です。
さいごに
これらの原則は、十分な学術的検証を踏んでいません。
単なる空想であり、単なるアイデアでしかありません。
そのため、この記事を読んでくださった方々が、上記の9つの視点からご自身のこれまでの学びを振り返っていただき、新たな挑戦に向かうための一助となれば幸いです。また、欠けている視点やアイデアを持ち寄って、より良い学びの原則にアップデートし続けていきたいと思っています。
わたしたちの学びは、多様で、楽しく、
みんなで創り上げるものであると信じています。
2022.02.27.
Tokyo, Japan
Takuya Akimoto
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