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ベルリンフィルとキリルペトレンコ

昨年11月。ベルリンフィルが4年ぶりに来日しました。
キリル・ペトレンコ率いるベルリンフィル。なかなか面白い公演でした。

この方、2019年シーズンよりベルリンフィル首席指揮者兼芸術監督を務めております。オペラがお好きな方はピンと来るはず。2013年〜2020年からバイエルン国立歌劇場で音楽総監督を務めてた方ですね。1995年にオーストリア・ブレゲンツにてデビュー後、着々とオペラ指揮者の経験を積み実績を築き上げる傍ら著名なオケ(ウィーン・フィル、ロンドン・ウィル、イスラエル・フィル、シカゴ響etc)に度々客演しています。実は2002年〜数年間、ベルリンのコーミッシェオーパーでも音楽監督を務めておりました。ベルリン再びといったところでしょうか。2019年にサイモン・ラトルの後任として就任することが正式に決まり、僅かな期間ではあったがバイエルン国立歌劇場、ベルリン・フィル、いずれもドイツ国内トップの歌劇場にオーケストラの音楽監督を務めたわけです。凄いですね。
オペラ経験豊富なペトレンコがベルリンフィルでどんな音を鳴らすのか、チケット入手後からワクワクが止まりませんでした。

ここで小話を一つ。
実は私、ベルリンフィルの公演はこのキリルペトレンコで2回目。これまでの28年間で何回かドイツへ行く機会はありましたが本場では聞いたことありません。初めてのベルリンフィルのマエストロは巨匠ズービン・メーターでした(2019年来日時)。プログラムはR•シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」op.35、ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55「英雄」(以下、『エロイカ』とする)でした。プログラムの選曲、とりわけ『エロイカ』に関してはズービン・メーターの意向が汲まれている事が音楽ジャーナリスト池田卓夫のインタビュー記事で明らかにされてます(このインタビュー記事が素晴らしいんです)。これまでイスラエル・フィルと長きにわたり日本ツアーを行い、ウィーン・フィルなどの世界を率いるオケのゲストとして来日する機会が増えてきたズービン・メーターですが御年87歳。私としてはもう一度日本で彼の演奏を聴きたいがおそらくこのベルリンフィルとの来日が最後かなと感じました(理由はまた別記事で)。彼の初来日は1969年。この時演奏したのが『エロイカ』だそうで、インタビュー中に池田氏が気づくんですが今回の来日は初来日からちょうど50年のメモリアルイヤー!(本人はそのように仰ってないが、、、)とにかく『エロイカ』の選曲についてズービン・メーターはこの様に述べている「とにかく、ロス・フィルとの初来日で指揮した作品を何か1つ、再び指揮したいと考えて名曲中の名曲、『エロイカ』を選びました」インタビュー中にメモリアルイヤーという事に気付いたにしては、なかなか粋な選曲ですよね。言わずもがな、メモリアルイヤーの『エロイカ』は素晴らしい演奏でした。前から10列目ド真ん中の席だったのでズービンメーターの背中はよく見えるしオケメンバーの表情もよく見えるスペシャルな席にも関わらず、理由は沢山ありますが終始涙で前が滲んでよく見えませんでした。この話もまた後日。

随分と話が脱線してしまいましたが、話はペトレンコに戻ります。
先に述べた様に前回の来日公演でスペシャルな体験をした私のベルリンへの期待値はMAXだったんです。が、youtubeや音楽配信サービスで探してもベルリンフィルとキリルペトレンコの演奏は限りがあり(デジタルコンサートの会員になれば沢山視聴することが可能です)、勉強不足の状態で鑑賞しました。もちろんどんな曲かは知ってますがそこまで聴き込んでないというか、、、。好きになった曲は指揮者・オケ・ソリスト、沢山のパターンで聞き込むわけですが、今回は時間が無さすぎて好きになれるほど聴けなかったというのが正しいのかな、ま、そんな感じです汗
気になるプログラムはレーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op132とR •シュトラウス:交響詩『英雄の生涯』op.42、結論から言うと、『英雄の生涯』のトリコになりました。いやぁもう大好き。今までR •シュトラウスの音楽は詩的で苦手でしたが、さすがペトレンコ?さすがベルリンフィル?いやこの場合さすがはペトレンコですね。R •シュトラウスのような詩的な曲は彼の長年のオペラ経験が光りますよね。実は関係者の方と話す機会があったんですが(私はクラシック好きの一般人です)、開演前の立ち話で「ペトレンコはとにかく物語的な演奏に強い!今回こちらのプログラムで聴けるのはとてもラッキーです」としきりに言うのでどんな演奏かと思ったんですが、演奏後「そういうことかぁ!」と深く納得しました。ベルリンフィル来日の際はAとB、2パターンのプログラムを準備してくれるんですが、これがまあかなり当たり外れ要素が強いと思うんです。東京公演以外両方やるわけではないので、地方公演なんかはプログラムは二の次で、もうベルリンフィルがこの地に来訪するだけでも嬉しいといった感情で皆さん行かれるのではないでしょうか。ちなみに私は毎回大阪公演ですが、今回はぶっちゃけプログラムを見た段階では”あれまハズレだわ”と感じてしまいましたね。だからあまり聴き込まずに行ったんだと思います。ですがそんな感情をも覆すペトレンコは流石ですね。『英雄の生涯』なんかは最初のコンバスの音から引き込まれっぱなし、気づいたら終わってました。とりわけ感動したのは第4楽章 英雄の戦い、ここのオケとの一体感は素晴らしく泣けました。いやぁ素晴らしいです。ペトレンコの評論や記事でよく記述されるのは彼のオケメンバーに対する姿勢です、絶対君主のカラヤンから上下関係を横一列に変えたアドバその意思を継いだラトル、ペトレンコの役割は横一列からさらに一歩進んだスタイルで音楽作りをしていくことなんですよね。パンフレットの記事で池田氏が仰る、『全員が納得した上で一つの音楽の道を進む「コンセンサス型」のマエストロ』(引用元:Berliner Philharmoniker CONDUCTED BY Kirill Prtrenko,P19)、第4楽章を聴いた時、この文を思い出した訳です。もちろんレーガーも素晴らしかったです。ただ演奏中にチェリストの一人が倒れてしまい演奏中断したこともあり、集中力が切れてそこまで記憶に残ってないのです、、、汗。全体的な感想としては「まあこんなもんで満足でしょ?」と言われているように感じる演奏でした。随分と上からだな、と思うかもしれませんがズービンメーターの時は音がキラキラしていたんです。もちろん世界屈指のオーケストラなわけですから、個々の技術の高さ音の多彩さはあるんですが、プラスアルファでズービンメーターが引き出すオケの音はキラキラしていたんです、立体的というか心に響くというか。まあそれは巨匠がなせる技であり、ペトレンコはまだ51歳、ベテランとはいえまだまだこれからなんだなと感じました。彼だって多彩な音を鳴らしますがキラキラまでは行かない。けれど音楽作りに対する姿勢つくりは新しいスタイルで、あのセンセーショナルな演奏を生み出したんですね。なので今後彼がどの様にベルリンフィルと共に歩むのかが非常に楽しみになった来日公演でした。
後から関係者の方に聞きましたが、倒れたチェリストは風邪で元々体調が良くなかったとかなんとか(英語での会話だったので正しくはわからない笑)。ハプニングはあれどチェリストの方は無事だったわけですし、『英雄の生涯』で私の集中力は完全に復活しましたし、終わりよければ全てよしと言うわけです。
ちなみに演奏会後、オケメンバーの人と話した時に「あんな感じのハプニングはたまにあるの?」と聴いたら、「12年間このオケでやってるけど、こんなこと初めてよ、私はね」と言われました。

2023年11月19日


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