復讐者の聖女について

裏切られた聖女はこうあるべきだった、という願いから作られた彼女はオリジナルたる聖女には反抗的だ。

彼女の怒りは聖女のためのものだから仕方がない。

押さえきれぬ彼女の裡を灼く憤怒は周囲にも向けられるけれど、それが何よりも彼女を彼女たらしめている。

偶然が重なっただけでどう逆立ちしても平凡な僕は、彼女にとっては最も唾棄すべき「普通の市民」なはずだ。かつて彼女を崇め、奉り、そして裏切って火にかけた。だからこそ彼女と踊れた時、本当はとても嬉しかったのに。

憤怒の炎で輝く彼女は美しい。胸が苦しくなるほどに。

炎に灼かれても君と一緒にいたい。でも、これはゲームだから。

君がこれ以上近寄るなというのなら、そこから先にはいけない。でも。

彼女が目をそらして「もういいわ」と言ったらそれは終わりの合図だ。このゲームは彼女が親(マスター)なので彼女の言葉には逆らわない。

そういうルールだ。


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「ねえ、ジル」聖女に良く似た彼女の顔が近づく。「貴方はどうなの?」聖女なのに聖女ではない、口の端がつり上がった笑み。「"あっち"のジルはいいのよ。でも、貴方は。」小さくついた息で私の髪が揺れる。「罪すらまだないのに、その罪をどう贖おうというの?一体貴方は何に耐えているのかしら?」今の私はきっと酷い顔をしているに違いない。ああ聖女。いや聖女はこんな顔はしない。

ジルはジャンヌを敬愛していて自分が汚してはいけないと考えているのに、もう自分によって汚された聖女がニヤニヤ自分を遠回しに責めてくるという…こう…この…たまらんよな…

でも多分邪ンヌさんの方も自分を産んだジルよりも剣ジルの方がからかい甲斐があるというだけでも面白いし気に入ってると思うんだ。何より自分を受け入れてくれてた人だし。変質してしまった「聖女ではない自分」も受け入れてくれるか試しちゃう部分がありそうな気がして

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