Fleurs du désert
「ねえ、私どうせ迎えるならハッピーエンドがいいの。あの子のこと、どうにかならないかしら」
メフォラシュでの唯一の話し相手はいつもどおり「承知しました」とだけ答えた。
今の状態は体がない分身軽ではあるが、この口数の少ない男しか相手がいないのは少し不満かもしれない。
いや、彼がいてくれてよかった。
気がつけば廃都に一人きりで、親友すら自分の存在に気づいてくれなかったのだ。
無愛想なりに彼は自分を大切にしてくれている。
それが彼の使命だとしても、真摯な姿勢にはいつも敬服する。
しばらく経った後、彼はゴーレムに使う部品をたくさん持ち込んできた。
大柄な彼が小さなパーツひとつひとつを手に取り、眺めているのを見るのは何故だか楽しい。
日中は帝国の軍務もあるということで、彼と会うのはもっぱら日が暮れてからになる。
眠りが必要ない彼は夜の間中パーツを組んでははずし、調整を繰り返していた。
毎夜毎夜(たまに任務で戻らないときもあったが)彼は作業を続け、ひたすら部品を組み立てた。
無愛想ゆえに彼の作業を見ながらする話は楽しかった。
メフォラシュの夜は寒い。長い時間をかけて組み上がったそれは、かつての自分と、今のあの子によく似ていた。
私が大いに喜ぶと、彼も引き結んでいた口元を僅かに緩ませた。
「これで完成?!できあがりかしら!」
「いえ、魔力炉の調整はこれからです」
「調整ってそんなに必要なの?」
「陛下や彼女に私と同じ出力は必要ありません」
「たしかに、か弱い乙女が無双の大将殿ぐらい強かったら困っちゃうかしら」
「私の仕事がなくなります」
――結局彼は、最期の調整はできなかったけれど。
戦いの果て、限界すらも超えて戦った彼の体はメフォラシュに戻ってきている。
私は体を取り戻した。
あの子は新しい名前を手に入れた。
ねえ、そうしたら、やっぱりハッピーエンドにはまだ足りないわ。
久々に会えた親友に。
「アポロ、できるだけ腕のいいゴーレム職人を集めてちょうだい」
彼女は一瞬動きを止めた後、頷いた。
願わくば、損傷が直せるレベルであればいいのだけど。
やっと取り戻した自分の手で、もう動かない彼の手を握る。
「ばかね、あなたもいなきゃハッピーエンドにならないでしょう?」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?