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リジェネラティブな旅、三輪山で感じた日本らしさとは

今年、最もリジェネラティブを感じた場所、それは三輪山だ。

三輪山は、奈良県桜井市にあるなだらかな円錐形の山。標高467メートル。でも普通の登山やハイキングとは違う、ガチの「登拝」の山だ。

山中では、話すことや写真撮影が禁じられている。食べ物や飲み物の持ち込みも禁止。頂上でおにぎりを食べようなどもってのほかだ。お水については、ふもとでご神水をボトルに詰めて、持参することができる。

なぜこれほどまで厳格なのか。それは、三輪山そのものが御神体とされているからだ。かつては神官や僧侶以外の入山は厳しく制限されていたという。

三輪山の歴史は古い。「古事記」や「日本書紀」には、御諸山、美和山、三諸岳と記されている。「大物主大神」が鎮まる神の山として、長らく信仰されてきた。

それにしてもなぜ三輪山は、それほどまでに信仰されてきたのか。

それは登ってみてわかった。

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その日は大雨だった。滑って転んで怪我をするリスク大。登らない決断をした友人もいた。それでも登る者たちは、ポンチョで全身を覆い、ふもとで入山登録をすませ、泥で足をすべらせないよう、ゆっくりゆっくり、一歩ずつ踏み締めるように、足を運んだ。

次第に、はー、はー、と息が切れる。まだ肌寒い3月下旬、しっかり着込んできたから、汗で全身ぐっしょり。休憩所でアウターを脱いでリュックにしまいこむ。相変わらずザーザーぶりの雨。普段なら家にこもる天候だ。

登っていると、無心になる。一歩先のこと以外は考えられない。日々の雑事から離れ、いま、この時、足を一歩前に進めることに一点集中する。ふとあたりを見渡すと、雨でしとしと濡れた木々や草、苔たちも、同じように呼吸をしている感覚にとらわれる。

そして、ようやくたどり着いた頂上付近には、神霊が鎮まるとされる岩、磐座(いわくら)が現れる。あたり一面、霧に包まれ、まっしろ。雲間から、光の柱がいくつも刺している。ゆっくり息を吸い込むと、密度の濃い空気で胸がいっぱいになる。

その瞬間、山や空気、雨と自分、一緒にのぼった友人とも一体となり、ただただ時が止まったような、自然の循環の一部になったような感覚に包まれた。

言葉にしようとすると、「幻想的」とか、「パワースポットとはこういうことか」「もののけ姫の"こだま"が今にも顔を出しそう」「風の谷のナウシカのオウムもいそう」そんな風にしか言い表せない。でも、そんなもんじゃない。「霊威」と言うべきか。

リジェネラティブな山に畏れをなし、敬い、信仰の対象としてきた昔の日本人のことが、少しわかった気がした。

こんな風に書くとスピリチュアルのように聞こえるかも知れない。写真撮影も禁止だから、つたない文章でしか表せない。でも、今回、三輪山には、「呼ばれた」気がしていた。

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この旅行の半年前には、宮崎県の高千穂を訪れた。高千穂は「古事記」における天孫降臨、つまり最初に神が地上に降り立った地として語り継がれている。その高千穂から、神武天皇は大和国(奈良)を目指し、初代天皇となったという。

つまり高千穂、奈良は、日本の歴史が始まった場所でもあり、日本の起源、「日本らしさ」がつまっている場所ともいえそうだ。その奈良で、御神体として崇められてきたのが、三輪山だ。

そんな経緯もあって、高千穂の次は奈良へ行くのが自然な流れに思えた。日本らしさを知るために。

奈良に入った初日、友人に「なぜ三輪山に呼ばれたと思ったの?」と聞かれた。その友人とは、仲間たちと食事や旅行をするだけでなく、お仕事もご一緒する仲だ。公私のどちらかだけでなく、多面的にお互いを知ることが、これほどまでに豊かなことだとは。

「呼ばれた」と思った理由はすぐには答えられなかった。けれども、友人からは、「本当はあることを望んでいるのではないの?その思いに蓋をしてるのでは?」と言われた。図星だった。長年、心の奥底にしまい込んでいた本音と痛みが、露わになった。

それからというもの、そのことについて向き合い、手を尽くしていく日々が始まった。詳しくは別の機会に書きたいと思うが、その日を境に、私の生活のあらゆることが根底から変わっていった。

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人生には分岐点があるというが、私の分岐点の一つは、この奈良旅行だった。三輪山の圧倒的な自然に触れ、日々の雑事から離れ、友人から言葉をもらった時に、はじめて素直になれた。都会の日常では、こうはならなかった。

まさにこの大自然のリジェネラティブな営み、霊威への畏れと感謝の心、それに背を押されるようにそっと歩みを進めることが、日本人らしさなのかもしれない。

きっと昔の人もそんなふうに感じ、暮らしてきたのではないか。

今年一番リジェネラティブを感じた日本の起源の地、三輪山を旅し、そう感じさせらた。

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登拝の後、三輪山のふもとの大神神社でふるまっていただいた、にゅうめんと柿の葉寿司

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