参考にならないHow to★作詞家になるには[6]

「歌詞を書きなさい」
そう言われても全然ピンとこなかった。

当時私は漠然と音楽を作る人は全員、何かしらライブやテレビなどの表舞台に立っているのだと思っていたのだ。
例えばTKのような作詞作曲もするプロデューサーがいるとか、バンドならバンドメンバーがそれぞれ作るとか、歌手なら本人が作詞や作曲をしているのだと思っていた。

「作曲家」と言えばベートーベンやバッハ、モーツアルトのことで、J-POPを作る「作曲家」がいることを知らなかった。
「作詞家」に至っては聞いたこともなかった。
言ってみれば、「航空関係の仕事をしている」と言う人は全員飛行機の中で働いていると思っているような勘違いをしていたのである。

なのでそう言われても全くビジョンが見えずヘラヘラと
「え、歌詞、歌詞ですか。ちょっと分からないです」
などと答えたので社長は少し拍子抜けしたような顔をしていた。

「音楽に、興味はないの?」
社長に聞かれて私は答えた。
「正直、音楽が何なのかよく分かってないかも知れません。
友達とカラオケくらいは行くんですけど…
1人で家にいる時に音楽を流したいなと思うこともないし
音楽が好きだ!とか、嫌いだ!とか、あまり思ったことがないです」

社長は「音楽が何か分からない」と言う私の言葉の意味が分からないような風で、「ふぅ~ん」と言ってまたしばらくパソコン画面を見て
「歌詞なんだけどなぁ」
と言った。

しばらく沈黙していると、カンカンカンカンと軽快に外階段を上って来る誰かの足音が聞こえた。

「あぁ、来た。もうそんな時間か」
社長が言うや否や、会社のドアがガチャっと開いて関西なまりの元気な挨拶が響き渡った。
「こんにちは~!」
そう言って入ってきたのは、子供の女の子だった。

身長は150cmくらいだろうか。
小柄で、艶々の真っ黒でストレートの長い髪。
健康的に日焼けした肌、全身棒っきれのように細い体。
その子が入ってきた瞬間、部屋の空気がパッと明るくなったような気がした。

「学校、行ったのか」
社長がその子に声をかけると
「はい!」
と、荷物を置きながらその子が礼儀正しく答えた。
そして私にも
「こんにちは!」
と可愛い笑顔を見せながら関西弁で挨拶をしてくれて、私も
「こんにちは!」
と返した。

「あ、この子、林明日香。キミにこの間スタジオで聞かせた歌、あれ歌ってるの、この子」
社長が私にそう言った。

「えええええええええ?!?!
え?!え?!この子?!この子?!え?!!」

歌詞を書きなさいと言われたことも吹き飛んで動揺も驚きも何もかも隠し切れないほどに、その子はあまりにも子供で、あの日聞いた歌声は結び付かない容姿だった。

「林明日香ですぅ。よろしくお願いします!」
深々と明日香がお辞儀をしたので、私も立ってお辞儀をして、彼女に言った。
「あ、渡邊亜希子です。ちょっと遊びに来ていて…
この間、歌聞かせてもらったよ、
すごく上手なんだね!びっくりしちゃった!」
明日香はそれを聞いてとても嬉しそうに
「ほんまですか!めっちゃ嬉しいです!歌うん、好きで!」
と笑った。


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