参考にならないHow to★作詞家になるには [2]

普段から名刺を頂いたお客様にはメールをお送りしていたので、翌日私は鞄から昨日会った社長の人の名刺を取り出してメールを送った。

「昨日はご来店ありがとうございました!
次回は是非お腹を空かせていらして下さい!
またお待ちしております!」

焼き鳥屋の店員として送ったメールの返事はすぐに返って来た。

「それで、いつ会社に遊びに来るの」

おや…?
「会社に遊びにおいで」
ってあれ、酔っ払いの社交辞令じゃないのか…?
どう返事をすべきか迷った。

この人は怪しいけど、あの若いカップルはとてもいい子達でまた会いたいし…
しばらく考えて、名刺にある会社名を検索したらちゃんと実績のある会社でそこの社長の欄には間違いなく名刺の名前と同じ文字が並んでいた。

音楽かぁ…。
どこかで見たミュージックビデオのメイキング映像みたいなレコーディングスタジオは見てみたいなぁ。
そもそも音楽って空気を振動させるだけの形のない物を作って、それを売って仕事にしているってどういう事なんだろう。
音楽の仕事って何だ?

うーん…
私はパソコンの前で1人数分間天を仰ぎながら迷って、結局いつも通りの行動に出ることにした。
迷うなら、とりあえず行く!

そこから何日かかけて数回のメールのやり取りをしてとんとん拍子に、私が西麻布にあるその会社を訪れる日取りが決まった。

後日私は単身初めての西麻布に降り立ち、社長と電話をしながら道のりを聞き、無事にその会社の前まで辿り着いた。

蔦が張った何とも趣のある二階建ての小ぢんまりとした建物。
「着きました」と言ったら二階のドアがガチャっと開いて、鉄の外階段をカンカンと鳴らしながら背中を丸めてあの日会った社長が下りてきた。
酔っ払っていなくても眼鏡の奥の眼光は鋭く、ただただ真顔で下を向きながら階段を下りて来た。

「こんにちは!遊びに来ました!」
私が言うと社長は私の全身を上から下まで数秒見て
「おう、あー、会社、会社はこの上」
と言って降りて来た外階段をまたカンカンと上って行ったので、私もその後に続いた。

なんで今私の全身を見たのだろう、という違和感はあった。

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