参考にならないHow to★作詞家になるには[7]

明日香の顔を見て親心が疼いたのか急に社長が
「ちょっと、飲みもん買ってくるわ、2人でなんか話とけよ」
と言って出かけて行った。

「座ろっか」
私が言うと明日香もうんうんと頷いて私達は近くにあった椅子にそれぞれ腰掛けた。
不思議と初対面の私達の間に気まずさなどはなく、それどころか私は彼女を一目見た時からもう、とっても彼女のことが好きであった。
まだ本当に彼女があの歌声の主なのかは半信半疑だったけれど、もし歌わないとしても、もう何故かとっても彼女のことが好きであった。
「関西出身なの?関西弁可愛いね、明日香ちゃんっていうんだね」
私が言うと懐っこい笑顔で明日香が答えた。
「あ、明日香でいいです!私もあこさんって呼んでもいいですか?」
私も笑顔で頷くと、明日香は続けた。
「そうなんです、もともと大阪なんです。今も家族は皆大阪におって、でも明日香は歌をやりたいから今は社長さんのマンションの下のお部屋を借りてもらって、そこに1人で住んでるんです」

「えぇ?!13歳で1人で?!大変だね!」

「そうなんです、社長さんのお家はすぐ上にあるんですけど、でもほんまに寝る前もいつも怖くて、夜とか起きちゃったりするとほんまにほんまに怖くて。お母さんにもいつも泣きながら電話とかしとって、もう限界やから大阪から通いたいって言ってて。やからお母さんがあと2週間したら大阪にまた引っ越せるようにって、社長さんと話してくれとって…」

「えぇ~…それでもまだ2週間もあるの…
かわいそうに…そりゃそうだよね…
風の音とかだってさ、怖いよね…
大阪行くまで一緒に住んであげたいわ…」

私もまだ二十歳前後ではあったけれど初めて母性が芽生え、思わずそんなことを言った。
目の前にいるどう見ても良い子な可愛い子供が、夜な夜な寂しくて怖い想いをしている。どうにかしてあげたいと思っての言葉だったが、その言葉を聞いた明日香の反応は少し予想外だった。

「ほんまですか?!ほんまに?!一緒に住んでくれます?!
ほんまにほんまにほんまにほんまに怖いんです。ほんまに!
大丈夫やったらほんまにあと少しやけど一緒に住んで欲しいです。
あこさん絶対いい人やし。お母さんもいいって言うと思う!」

会社の扉がガチャっと開き、社長がペットボトルのジュースや缶コーヒーを数本持って戻ってきた。
「えっと、明日香は~…オレンジか、炭酸か…」

私と明日香は隣に並んで、社長に言った。

「あの、私達、一緒に住もうと思うんですけど」

「はぁ?!」
社長はあんぐりと口を開けて、固まっていた。

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