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シリマーの秘密 15。色別洗剤 パウリーヌ・テルヴォ作 戸田昭子 訳

15.色別 洗剤 

 

給食の後、クラスの連中は、休む間もなく教室に突進する。先生はまだ来ていない。誰も席につかない。アンニーナすら、私の発表について、何も知らない。

 

私は粘着タックを6つ、等分に丸める。立ち上がる。教室の前に歩いていき、ポスターをホワイトボードに張りつける。先生が教室に入ってきて、クラスに静かにするよう、命じた。

 

開始。

「クラスメートの皆さん」私は言う。

後ろの方でくすくす笑いが起きる。助けて!これでは発表を始められない。

「いいですか、準備できましたね」先生が言う。「今日の発表はシリの番です」

 

気持ちを立て直す。普通ではいられない。それを願うのも無駄。私は自分について話すことがあるだけ。

「皆さんの中で私をよく知っている人は少ないでしょう」私は言う。「ですから、少し、私のことを話します」

私は壁の地図を示す。

「ここにある国は、私を描くものです。その名前はシリマーです。みなさんは、この国に隣接する国々です」

「今回は、シリマーの、とある外交についての話です」先生が説明する。「シリ国家が隣国と友情を広げるのを助けるものです」

「みなさんは、このような友情の活動には、私が全く興味をもたないと思っていることでしょう。それは間違いです」私は言う。「隣国から来る影響がシリマーの内部規則に近づくことは、決してないのです。私は、もちろん他の国がもつ知識を尊重します」

「シリマー内部の規則とはどんなものですか?」先生が質問する。

「シリマーは、西にも東にも、頭を下げるつもりはありません。まさしくフィンランドのように。シリマーでは、自分の内部に頭を下げます。内向的に生きます」

私は皆がちゃんと聞いているかどうかを確認するために、時間をとった。教室は、ぴくりともしない静けさに支配されている。私は気を取り戻して、続ける。

「内向的、という言葉を聞いたことがある人はどれくらいいますか」

 

何人かの手があがる。

「内向と外向について話しましょう」私は説明する。「一般的には、外交的な人は社会的であり、内向的な人はそうではないと言われています。それは真っ赤なウソです。本当の質問は、方向性の問題でしかありません。あなたが中に向かっているか、それとも外の事実に向かっているか、ということです。これについて考えたことのある人がいますか?」

 

(完全な沈黙)

 

「私が思うように、内向的な人は、社会的ではない、というわけではありません」私は続ける。

「それは逆で、相手に対し強く尊敬をもつことができます。彼らはただ、一度にひとりだけに出会いたい、というだけです」

「それがシリマーとどう関係があるの?」アクスが質問する。

「あなたが単に内向的かもしれないとしたら、シリマーでの生活はそれと少し似ているんですよ。世界の半分の人口は内向的と言われています」と、先生が説明する。「でもシリマーでは、その内部の支配は、さらに深いものなのです」

「その通りです」私は言う。「シリマー内部の方向性は、とても深いので、そのため、自閉症という名前が使われます」

 

また後ろの方で、ひそひそ笑いが起きる。先生は笑っている生徒たちを、厳しい一瞥で、黙らせる。

 

「自閉症スペクトラムについて少し話してください」と先生が言う。

「私は最初、自分自身、これらの単語に驚きました」と説明する。「でも、自閉症の精神病質というのは、その言葉よりましでしょうか?このような名前は歴史的に使われてきました。我々は、命をはく奪されるといったようなことにも、さらされてきました。そこから思えば、私の人生は、楽なものです。私は可能な支援を全て、手に入れられます」

「この発表のあとには、シリはあなたたちの支えも受け取ることでしょう」先生が言う。

教室ではささやき声がする。アクスが手を挙げる。彼は殺人クリニックについてさらに話を聞きたいという。

私は、800人もの普通ではない子供たちが、アスペルガー氏によって間違いなく死においやられたことを語った。

「ナチ・ドイツ時代の伝説的人物たる医者のハンス・アスペルガー氏は、一般的に思われているのとは逆に、自閉症の子供たちを守ろうとは全くしなかったと、研究により公表されています」先生が説明する。

「その逆で、彼はナチ・ドイツのイデオロギーに文字通りに従いました。彼は、自閉症の子供たち等、すべての例外を迫害しました」

「ナチ・ドイツの文化では、アーリア人種、ドイツ人、そして指導者を理想としました」先生は続ける。

「ハイ、ヒットラー」と、レオが叫ぶ。

みなが笑う。

「幸い私たちは自由な国、すべての花が開花することができる国に生きています」先生が言う。「そしてあなたたち現在の若者たちはとても賢く、互いの違いを尊重することを学んでいますね」

 

教室は満場一致の静けさだ。

 

「自閉症スぺクトラムは、色別洗剤みたいなものです」私は言う。「洗濯機の中のすべての衣服はすべて違います。自閉症スぺクトラムのそれぞれも、同じように違うのです」

私は、ホワイトボードの端から端までの長い線を描いた。

「これは、連続するものとして見ることができます。自閉症スペクトラムの各自がこの連続するもののどこかへ位置されます」

私は線の一番左へ向かって歩いた。

「この端の人は少しの自閉す。その隣は、自閉が強い人です。」

「僕は、どの辺にいますか?」レオが質問する。

「間違いなく、同時代の人の線の最初の部分ですね」先生は少し笑う。「誰にでも、なんらかの傾向があるのです」

「何をもって自閉とされると思いますか?」先生が質問する。

「私は、同級生のあなたたちが話していることには興味がありません」私は説明する。「片方の耳から入って、もう片方から出ていきます」

 

先生は、それがどこから導き出されるのか説明するように、私に言う。

「私たちは、物事についてより深く熟知したいと思っているのです」私は言う。「自分が本当に楽しいことわくわくすることをしたいのです。私は自分の話が好きです」

「たしかに、僕も自分自身の話が好きだな」アクスが言う。

「アクスは自閉症だ」ロニが笑う。

「自分のことをする、というのが、どうして自閉症になるの?」とカリタが質問する。

「いい質問です」先生が言う。

「シリマーでは、自分が決めたことを見ています」と私は説明する。「私は、自分の話を放り出して、周囲の人の興味のあることにすり替えることはできません。それは私に指図するもので、私が指図するものではありません。私は常に私の話す事と一緒にいる、ということです」

「だから、放課時間に来なくていいの?」レオが質問する。

 

先生は、それについては自身の決定ではなく、シリの言うことを聞いて大人たちが決めたことであると説明する。

「私の決めた法律というのは、私は常に自分の中にいて、その世界に鍵をかけておくことです。その点では私は自閉症です。私の規則には、皆さんのように方向を変える可能性がありません。私には自分自身のものの見方があります。」

 

クラスの皆は、私の話にじっとついてくる。

 

「でも、話せるんだよね」ロニが言う。

「いい所に気が付きましたね」先生が言う。「でも、シリが先に言ったことを覚えていますか?誰でも自分自身の性質について自閉なのです。衣服はどれひとつとして同じではありません。アスペルガー症候群は話せます」

「私の自閉症の古い呼び名が、アスペルガー症候群です。言語においては、私は平均より上にいます。それは私たちアスペルガーに助けが必要ない、ということではありません。私の自閉症は軽い方ですが、誰でも4つのタイプのように助けが必要なのです」

「そのために、スペクトルについてのみ話すのがシンプルです」先生が説明する。
「全ての自閉症スペクトラムの人々は同じスペクトラムに含まれます。それが、私の診断結果です。自閉症スペクトラム障害です」

「それはずっと同じパターンだったの?」エミリアが質問する。「自閉症の話をしているけれど、あなたは普通の人なのでしょう?」

「そのために、シリウス人、シリウスライネン、という言葉を使いたいと思います。」私は言う。

「シリウス人?」アクスが繰り返す。

「シリマーには、シリ星から星屑が降ってきます」私は言う。

クレヨンで、私の国の上に、小さな点を描く。

「だからここは、世界の中で最高の場所でもあるのです」

 

先生は、シリマーにおいて何が大切なのかをもっと詳しく話すように、と言う。

「国境に接する側のすべての国から、小さい国家シリウスへはどうアクセスしたらよいのか、教えてください」と。

 

私は私の国家について正しく話す。隣国との間では友情の強化が確認されなくてはならない。

「シリマーに存在する、ということは、自分自身の時間を、自分の中で過ごすということです。自分で時間割を決めます。それはつまりa) ひとりであること、b) 自分と向き合う、 c)またはその両方です」

 

私は自分の国の首都と、それよりさらに大きい輪を描いた。

「ここが、誰も私の許可なく超えることができない主な地域です」私は説明する。「私が内に向くときには、その国境は私の中心にあります。まもなく、私は内側に隠れます」

「そこにはどうやって行けますか?」と先生が尋ねる。

「正しい訪問には、それにふさわしいものが必要です」私は言う。「私は、隣国の指導者だけを中へ通します。それも、自分の国の世話を誠実に行っている指導者だけです」

 

私は、シリマーで考えが示していることを語る。嘘をつけない事。すべてを直接に話す。

「わかってるじゃん」カリタが言う。

「嘘つき」と、アンニーナが言う。

先生は喧嘩を制止した。

「アンニーナのように皆さんがはっきりものをいうのであったなら」と私は言う。

「自閉症の人に、何を思っているかをはっきり言えます」先生が言う。

「中途半端な嘘を我々は理解できません。」

「あなたたちがシリマーを訪問するときには、本当に実現するように」先生が助言する。

「そうではないときは、失敗です」私は言う、「それは、私がコミュニケーションが取れないということでは全くありません。鍵をかけるのです」

「シリと一緒のときは、すべてが事実です」先生が言う。

「シリはそこに何の必要もありません」アンニーナが擁護する。

「もちろん、私は何を言ってはいけないのか、というリストを学ぶことができます」私はそう提案する。「誰か、そういうリストを私に書いてくれますか」

「そういうリストはありません」先生は言う。「私たちは、シリマーの政治を理解すればよいのです」

 

私はクラスメートにまだ質問があるか、と聞いた。ない、というので、紙をボードから外し、丸め、自分の席に戻った。

クラスはいい感じだ。

私は自分がどうやったのか、わからない。

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