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アダルト・エデュケーション 読了

 読書の秋2020コンテストの締め切りが近くなって、指定図書の中から飛び出して書いてきましたが、これで最後になると思います。本当に書きたい感想はこれなんですとはじめに言い出すことができませんでした。

 敬愛する村山由佳先生のこの作品は飛んでいる。とてつもなく不埒でセクシャルな作品達がこれでもどうだと趣向を変えて五感を刺激する作品です。是非ともこの寒さと、殺伐とした世の中において、一人で寝る夜があまりにも冷たい時には誰かと一緒にこの作品を読みながら、お酒でも呑んで温まって頂きたいと思う一冊です。ええ? 一人なのだけど? 大丈夫です。私も一人で読んでおりますよ。まずお手に取ってくださいませ。

 全部で12編からなりますので、すべての感想を書くことは少し辛いですので、私の好きな作品とにかくぐっと来たなと思う作品を中心に手繰って参ります。

 二作目の  「それでも前へ進め」

 年下の部下とお局様の恋愛模様です。とても良くある話じゃないかと思うところがたくさんあって、現実に誰かこんな人いるでしょうと思います。それだけに痛々しいのです。まるで気持ちの弱いところから血が吹き出してくるような、痛々しさは若い男に翻弄される陽子と自分が同化する。

 私にはこんな経験はない。だが心が寂しい時にふと入り込んだ若さを持つ雄の温かいこと。想像するだけで甘美な時間だっただろう。だが長くは続かないことを知っていてもいざ、現実を突きつけられると痛いし、苦しい。自分が隆一という若造に入れあげただけと思えば思うほどにつらさは嫌というほど自分を苛む。ましてや、入社二年目の使えない女に寝取られるという悲劇まで引き連れて、残酷な別れという幕引きはありふれていてもキツい。

 それでも、前に進まねばならない。女はこんなことで潰れたりしないという強さと脆さを示してくれた作品に私は憐憫の情で心が押しつぶされそうだった。


次の私の心に響いた作品は6作目の   「ことばはいらない」

 不思議なタイトルだったが、申し訳ないことにはじめに情事の相手が人ではないことは予想が付いてしまっていた。アブノーマルでセクシャリティの感じが漂う。気配で分かってしまったのは少し残念だった。ことばを持つ人間が無言で交わることは極まれだと思ったので、ユーリがロシア人ではないかとは思わなかった。だって英語で会話できるはず。有紗はユーリととても濃厚な時間を過ごして愛は深まっていたはず、だった。

 なのに、道路に飛び出した彼は車にはねられて哀しいことに亡くなってしまう。悲劇はいつも唐突で、予想などしないでやってくる。ラストの1行に私は涙した。かけがえのない彼の姿を行間から垣間見たらもう涙腺は開いて涙が止まらない。自分を有紗に重ねた。人でなくても、三年もともに過ごせば十分に愛せる。


7作目     「不死鳥の羽ばたき」

 これもかなりキツい物語だった、実際にこういう感覚覚えがあったから。男と別れた痛みを、他の痛みで紛らわす感じ、嫌いじゃない。だが更にこの作品では、自分の体にタトゥーを刻むことで、女優という商品である自らの体に傷をつけて同衾する監督が自分を避けることを狙いとしているという、何十にも絡んだ愛憎の糸、と意図。まさに村山ワールド全開なのである。

 ページをめくる手が早くなる、どんどん進む痛みと愛憎の嵐に読む方はもうなすすべもない。年上の滝田という男性と交わる描写は一切ない。だがタトゥーを実際に彫るシーンからの性的な場面への続き方は絶妙だ。

 大柄の外人男性に施されるタトゥーを彫る痛みからの交わりは私という女優の淫らな感じと、年上の男性や女優という仕事との決別をイメージさせる。だが、タトゥーのデザインは不死鳥である。

 私は何度でも蘇る、彫り師ヴラドとのことを自分に刻み帰路につく。とてつもない痛みは心になのか、体になのかもはや、そんな事はどちらでもない。この作品を読んだあとに大きくため息をついた。

 女はいつだって戦っている、そして何度でも蘇る。

 そのためなら、痛みを伴うことすらいとわない。それが女だ、と。この作品は教えてくれる。


次は11作目   「罪の効用」

 叔母の夫との禁断愛を描いた作品だが、これが私には一番堪える。それはこの二人の関係性ではない。これから書こうかと思っていた作品のプロットに少し抵触していたから、いや、違う。過去にこの作品は二度読んでいるので、自分がこの作品に感化されているのかも知れない。

 菜々子は彼氏と別れたばかり。仕事でもうまくいかないことだらけ、そんな事誰にでもあるし、いつでもどこでもうまくいかないことだらけ。そんな日常のなかで、叔母から海外に出かけることを聞いているほど仲が良い関係性がある。それだけに叔母の夫とどうかなってしまうなんてあり得ないと思うのだが、ここは絶対に落ちるところまで落ちてもらわないと村山作品ではない。

 すべての負の感情をいくら義理とはいえ叔父にぶつける女の異常な偏愛を受け止めるおとこ、そう、二人に血の繋がりなどはない。ただの男と女。相手に妻がいるだけ、何が起ってもそれは誰にも非難されない。叔母が帰るまでの3日間は菜々子はどんなことにも耐えられる。快楽だけに思いを馳せて、辛い仕事も乗り越える。けれど,そのあとに待っている地獄を菜々子は知らない。

 どんなに体が合おうとも、その男は叔母のものだ。

 快楽を知ってしまった心と体が、現実の生活のなかで制御できるのかなんて野暮だ。私は思う。性愛にはタブーなど存在しないのだろうか。そんなもの誰が決めたのだろう。


 これらの作品以外にも全部で12編どれもいろいろとイケないことばかりだが、それが禁断であればあるほど、深く心の奥に落ちていく。

 それが愛。

 是非ともよんでください。そしてこんな恋に、愛に溺れて頂きたいです。

 なかには、これは嫌だなという辛い作品もあります、なのでそれには触れませんでした。スミマセン、樹の好みで申し訳ありませんでした。

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