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プロダクトロードマップを作る上で大切となるたった1つのポイント

マネーフォワードビジネスカンパニーでMid Market 領域のCPO(Chief Product Officer)を担当しているヒロハラです。

マネーフォワードビジネスカンパニーでは、各プロダクトマネージャーが、年に3回の頻度でプロダクトロードマップのアップデートを行っています。

特に来年度のスタートに向けて全体の戦略をブラッシュアップする9月のタイミングはメジャーアップデートとなるため、多くの関係者と会話を重ねて1ヶ月以上の時間をかけてロードマップを確定させていくという一大イベントとなっています。

今回は、プロダクトマネージャーにとって最も重要な仕事とも言えるプロダクトロードマップの作成において、私自身が大切にすべきと考えている「たった1つのポイント」について書いていきたいと思います。


よくありがちなロードマップ

いきなりですが、一般的に、ロードマップは下記のようになっていることが多いです。

よくありがちなロードマップ

いわゆる、ホップ、ステップ、ジャンプ型と言われるもので、1年目は、競合プロダクトから機能劣位になるような基本機能のキャッチアップ、2年目は、ユーザーからよくリクエストを頂くものの優先順位が上げづらい細かな改善や要望の対応、そして3年目は、競合プロダクトと差別化になるような画期的な機能追加、といったイメージです。

このような構成のロードマップは、社内の誰からもダメ出しがされづらく、合格点をもらいやすいです。

例えばセールス部門からは、あと1年で競合プロダクトとの機能差異も無くなり売りやすくなりますね!とか、CS部門からは、あと1年我慢すれば細かな要望にも対応できるようになってユーザーさんに喜んで頂けそうですね!とか言ってもらえて、社内の各ビジネス部門からも受け入れてもらえることが多いです。

しかし、一見合格点に見えるこのロードマップ、1年経って、翌年アップデートされたものを見てみると、以下のようになっていることがほとんどです。

翌年作成したロードマップ

ぱっと見ただけでは、前年のロードマップとどこが違うかわからなかったのでは無いでしょうか?

そうです、スケールの年度が1年進んだだけで、構成が一切変わっていないのです。

1年の間には、マーケットも競合も変化し進化するので、対応すべき基本機能やキャッチアップすべき競合劣位機能が増え、結局次の1年も基本機能のキャッチアップに費やされることになります。

そして、ユーザーからの細かなリクエストへの対応や、差別化になるような画期的な機能追加は、それぞれ1年後ろにスライドし、引き続き、2年後、3年後となってしまっています。

ここで誰かが、これ毎年同じことの繰り返しになってませんか?と言えればまだ良いのですが、このホップ、ステップ、ジャンプ型のロードマップは、前述した通り、誰からもダメ出しをされづらいため、最終的に関係各位に受け入れられて、これが毎年毎年の繰り返しとなってしまう傾向にあります。

この、ホップ、ステップ、ジャンプ型のロードマップは、あえて言葉を選ばずに言うと、永遠に成功しないプロダクトのロードマップの典型となります。

とはいえ、では、どうすればよいのでしょうか?

あるべきロードマップ

私が考える、あるべきロードマップは以下の通りです。

あるべき理想のロードマップ

前述のロードマップで、左から順に並んでいた、ホップ、ステップ、ジャンプを縦積みにして3つのレーンを作り、常に同時並行で行う構成にするというものです。

これが、タイトルにも書いた「たった1つのポイント」です。

この構成にすることで、論理的には、基本機能をキャッチアップするペースは遅くなるものの、ユーザーからの細かなリクエストや、競合製品にない画期的な機能も1年目から少しずつ搭載されることで、プロダクトとしての価値が増し、世の中に無いプロダクトへと成長していくことが可能となります。

この形のロードマップにおいては、それぞれのレーンごとに優先順位をつけること、そして、3つのレーンをどのような配分比率で構成するかを決めることが重要となります。

レーンごとの配分比率がPdMの腕の見せどころ

レーンごとの配分比率には画一的な正解はなく、自身が担当するプロダクトが置かれている状況や、競合プロダクトやマーケットの状況、自社の開発体制など、さまざまな変数を見ながら、意思決定していきます。

一般論でいうと、後発のプロダクトほど差別化となる画期的な機能追加の比率が大きく、すでにNo.1となっているようなプロダクトは基本機能の追加の比率が高くなるのがセオリーですが、ここを最終的にどのように意思決定するかがプロダクトマネージャーの腕の見せどころとなります。

差別化機能の比率を極端に高めた例

ホップ、ステップ、ジャンプのジャンプ部分にあたる、画期的な差別化機能の比率を極端に大きくして成功した例は、後発から一気に逆転して市場を席巻したプロダクトに多く、これらの例からは特に大きな学びを得ることができます。

例えば、Google Spreadsheetは、MicrosoftのExcelという、いまさら誰も追いつくことができないと思っていた競合プロダクトを追いかけた表計算ソフトウェアです。

ここでGoogle Spreadsheetは、Excelの機能をひたすら追いかけるのではなく、Excelには無い共同編集という差別化機能を初期から突き詰めて磨きをかけていくことで、ユーザーに新たな価値を届け、多くのシェアを獲得していきました。

いまとなっては、結果的にExcelとほぼ遜色ないほどに基本機能も強化されましたが、もし、ホップ、ステップ、ジャンプ型で、まずはExcelの機能に追いついてから、いつか共同編集もできたらいいよね、というようなロードマップで開発を進めていたら、いまのGoogle Spreadsheetの成功は無かったでしょう。

マネーフォワードが提供する、マネーフォワードクラウド会計もこのGoogle Spreadsheetのパターンに該当します。

日本国内の中小企業向け会計ソフト業界は、いくつかの老舗のパッケージソフトが独占的にシェアを獲得しており、後発で今さらこれらソフトに追いつくのは不可能と思われていました。

ここでマネーフォワードクラウド会計は、アカウントアグリゲーションという他社に無い差別化機能を初期から追求することで、これまでに無い圧倒的なユーザー体験を提供しシェアを獲得してきました。(私自身が入社する前の出来事なので、1ファンとして外から見ていた所感で書いていますw)

基本機能の比率を極端に高めた例

一方、基本機能のキャッチアップの比率を極端に高める戦略は、一般的には、すでにNo.1となっているような王者のプロダクトにおいて効果的です。

競合各社は、王者のプロダクトの機能をキャッチアップしようと日々取り組んでくるので、王者側は、さらに機能を積み重ねていけばいくほど競合に追いつかれづらくなります。

ただ、後発でありながら、基本機能のキャッチアップに全振りするようなケースも無い訳ではありません。

直近で有名な例は、Instagramのストーリーズがとった戦略です。

当時Snapchatが持っていた機能を、そのまま真似して一気にキャッチアップし、Instagramは写真や動画を中心としたSNSの領域での地位を不動のものにしました。

前述したような、毎年毎年競合劣位の解消が最優先となるようなよくあるロードマップとなってしまうのは、後発プロダクトがいつまでも競合に追いつかないからなのですが、Meta社の場合は、莫大な資金力と技術力を使って、一瞬にしてキャッチアップして追いついてしまうという戦略を取りました。

この戦略は、圧倒的な資金力を持っているときのみ通用する方法のため、GAFAMのような、圧倒的な規模を持つ企業しか取れない戦略と言うこともできます。

まとめ

今回は、プロダクトロードマップの作成において、大切にすべき「たった1つのポイント」について書いてみました。

多くの関係者と認識を合わせて作っていくことになるプロダクトロードマップは、なんとなく減点されづらい、当たり障りないものにまとまりがちですが、プロダクトロードマップの作り方次第で、将来ユーザーに届けられる価値の大きさ、つまりプロダクトの価値そのものが大きく変わってきます。

今回書いた「たった1つのポイント」を意識しながら、どのようなステップでプロダクトを育てていけばより高い価値が届けられるようになるのか、これからもこだわり抜いてプロダクトロードマップを描いていきたいと思います。



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