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ロズタリア大陸『聖魔戦争』その22

その21→https://note.com/akihi_gfl/n/n2d31df71ee67

『消え行く人々』

『悪りぃけど、あんたらの言い分をいちいち聞いてるヒマ、うちらにはねぇんだわ』
深夜、一心不乱にダンスの練習をする若者達の集団に向かって、淡い藤色のおうむが上空から急襲する。
おうむの鉤爪が続々と若者を襲っていく。
奇妙なことに彼らは悲鳴1つあげることすらなく、夜の闇へと溶け込んで、跡形もなく消えていってしまった。

商業都市では、迷惑行為を続ける隣人や移民が続々と、ある日こつぜんと行方不明となる事件が多発した。
けれど、元々、地元民として商売に励んでいる住民は洗濯物など家事をしながら、世間話をする程度だった。
「そういえば、あいつら見かけなくなったねぇ~?」
「幼い賢者さんのおかげで、ここ最近、見回りの憲兵が大幅に増えたからね~」
「んじゃ人知れずに死神の餌食になったか?
あるいは死神を恐れて早々に余所にでも逃げただけだね」
「アハハハハハ」
賃金もあがり、治安も以前に比べて良くなって、住みやすくなった!
ありがたい!!などと笑って各々、用が済んだら自宅に戻るのであった。

正式に『俺、王太子辞めました!』宣言パーティー開催!!

「いくら借金返済するため!とはいえ、俺はもうお前の茶番劇に今後、一切付き合わないからな!!」
言う通りに昨夜、短剣を携帯したまま寝たらエライ目に遭った!!
執務室で自分の椅子に座るなり、開口一番!
そう憤るシャールヴィ王子に、先に来て仕分け作業をしていたシェドが軽い調子で了承する。
「構いませんよ?」
そうして、彼は準備が整い次第、正式に王位を継ぐ意思を永久に放棄する旨を発表する。
「廃太子宣言パーティーの開催ですか……
分かりました。
招待客などは放棄宣言の見届け人である大司教、そして復帰を期待している貴族、最後に元婚約者の公女など、立ち会いに必要だと判断した人物など、私のほうで指定させて頂ければ……と思いますがよろしいですか?」
むしろ率先して手配する反応を返してきた。
「あ、あぁ……
てか、あいつ呼ぶの?」
どこか嫌そうな表情でシャールヴィ王子がげんなりする。
「仮にも一応、まだ婚約者ですから……
クラヴィス殿下からの輿入れの要求を父親である大公自身が曖昧な返答で『拒否』しています。
ついでにその場で婚約破棄も宣言されるのが、むしろよろしいかと?」
「そう言われれば、そうだな!
俺が万が一にも気が変わってやっぱ王都奪還します!!なんて絶対にあり得ない!!
今まで訪ねてきた貴族や騎士の連中にたっぷり思い知らせないと、な!!」
借金返し終わったら、のんびり傭兵稼業でもやりながら、ぶらぶら大陸を放浪するかなぁ~!
呑気に将来の夢を語りつつ、シャールヴィはご機嫌な様子で制度改革など、山積みとなった書類に片っ端から署名していったのだった。

『彼をこれ以上、現実世界で付き合わせ続けるのは、これが限界だなぁ~……』
表向きは享楽三昧でこしらえた巨額の借金返済を理由に、同行や手助けしてきた。
シェドは表面上、素知らぬ顔で淡々と署名済みの書類と未記入の書類を整理し続ける。
『彼自身は生まれつき他人を疑うコトを知らない純粋な人の良い王子様……
だからこそ、賭場で横行しているイカサマに側近もろとも気がつかず、下町の連中に良いようにカモられていた。
さて、もう少し自分に付き合って貰うにはどうしたら良いかな??』
そんなことを考えながら、シェドは記入済みの書類の束を抱えて主に一礼して退出したのだった。


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