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ロズタリア大陸『聖魔戦争』その30

『底のない冥府の沼底で……』

『恨めしい……』
『なんで、俺だけいつもこんな目に!?』
口減らしのために山に捨てられた老婆の思念
理不尽に殴られる青年の怒り
『もっと……!もっとカネが欲しい!!』
どんなことをしても誰もが羨ましがるほど大金が欲しい!果てなき欲望ーー
嫉妬、妬み、恨み、怒り、など……負の感情や思念、想念が積もり重なり、ローザの魂魄を捉え、下へ下へ!と押し流し続けていた。

下界人は飢えと渇望に満ち溢れている……
『そうか……だから【穢れ】ぬよう任務が終わったら早々に里に戻り、10日以上の沐浴を義務つけていたのですね……』
ローザの魂魄は真っ暗な闇の中、果てしなく、どこまでも落ち続けていた。
また、任務もなぜ大っぴらに関わることを禁止していたのか?
今回はどうして戦闘向きでなく、補助や後方支援を主任務とする自分を本来の姿を見破ったら、そのまま薬師として働くよう命じたのか?
なんとなく女王様の思惑をぼんやりと推測していた。
『女王様はお見通しだったんだ……
私が心のどこかで下界人に興味を、憧れの気持ちを抱いているのを……』
願いを叶える機会と下界と関わる代償を学ばせるためだった……
そんな風に、落ちながらつらつらと考え続ける。
『私……どうなるんだろう??』
パーティーでマリーと二人で仲良くアップルパイを食べていた最中だった。
「原材料に鶏のタマゴが使われていますが、ローザ様、よろしいのですか??」
マリーが楽しそうに、そう問いかけてきた。
肉だけでなく、卵焼きはあまり召し上がらない。
「ついでに、言ってはなんですが、牛乳も使われています」
もぐもぐ……
「そうなんですか??」
ぱちくり、何度も瞳を意外そうに瞬く。一瞬、紫水晶の瞳を閉じ、再び開けた時、朗らかに笑ってみせた。
「美味しいからオッケーです!!」
最近はチーズや生クリームなど、畜産物の美味しさを理解し始めてきていた。

そこに緑色の激しく波打った髪の青年が申し訳なさそうに腹痛を訴えてきた。
「では、医務室に……」
先に行って毛布など用意しておいて欲しい。マリーにそうお願いして廊下を歩いていた時だった。
初めて履く、やたら歩きにくい靴。思わずよろけてしまい、具合の悪い青年に一瞬、掴みかかってしまった。
『えっ!?』
何が起きた?
考えるより先に自身の腹に強烈な痛みを覚え……そこで意識を失った。

『そうだ!
マリーに伝えないと……
どうやら自分は還れそうにない、と……』
みれば自分の両腕から血が少しずつ流れ出し、闇に溶けこんでいっている。
ようやくローザは認識した。
緑髪の貴族風な見た目の青年は、自分を破壊神を復活させる生け贄に利用するためにウソをついて人目のない場所に連れ出したのだ。
『このままだと大陸に闇の獣が生み出され、跋扈することになる!
どうにか出血を止めないと!!』
快癒パラネ・ミーシャ
試しに女神言語ガレス・スフレクト を唱えてみる。
女神の加護が届かない……!
深淵の闇底に向かっている!?
『このままでは、冥府におられる破壊神に捕まってしまう!』
それは流石にマズイ!
試しに上に向かって足掻いて泳いでみる。
『さ……せない!』
『ずるい!ひとりだけ!』
『にげるのか?』
気がつけば、結構な人数が自分の全身を掴み、一緒に冥福まで堕ちていかせようとしがみついていた。
『下界で虐げられ続けて無念の死を遂げた者達!?』
ローザが驚き、無理に振り払うか?
迷ってしまった。
亡者の魂魄は容赦なく、グイグイ!と永久とこしえ の底へと誘い、一緒に巻き添えにしようと引きずりこんでいく。

『戻ってこい!ローザ!!』

彼の強い思念を感じた瞬間、まばゆいばかりの光が上から降り注ぎ始めたのだった。

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