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きちんと暗い夜の山羊刺し 二十番@安里

この記事は2019年8月27日、すなわち2年前に私のfacebookに上げたものです。

沖縄初日は那覇空港に1700に着くはずであったが、諸々あって1800に着陸。今夜の宿にチェックインしたのが1900。しばらく休んで後、夕食を取りに出かける。


那覇の夜、何が良いかって、ちゃんと暗いんですよ。無駄に明るくない。しかも、季節柄か、ふんわり暑い。こりゃあ一晩中飲み歩きたくなる気持ちもわかる。

今夜はずいぶん前から山羊料理と決めていた。安里の「二十番」には実は2年前のGW明け、私の沖縄初訪問時にも入ろうとした。が、残念ながら当時は滞在期間中一度も店が開かなかった。

店のことはある人のTwitterで知った。と言っても、彼は店名は明かさなかった。が、店のドアの画像は上げていたので、それを手がかりに那覇市内の山羊料理屋の画像をネットでしらみ潰しにし、この店を突き止めた。彼は那覇市内で山羊料理ならこの店が一番と大絶賛していた。



しかしこの外観である。いくら「観光客大歓迎」だの「お気軽にどうぞ」だの言われても、普通はワナだと思うよね?

実際私はこの期に及んで躊躇った。そしてなんと、あろうことか、一旦店に入ることを断念し、国際通り近くにある那覇市内で山羊料理ならここ、と通常言われる超有名店の方に行ってしまったのだ!

ただ、やはりというべきか、その店は満席。でもそれで良かった。あの店、確かに旨いに違いない。が、マイナー志向の塊である私は、たぶん心に一抹の寂しさを覚えたに違いない。

結局「二十番」に戻る。なおも躊躇ったが、「観光客大歓迎」だの「お気軽にどうぞ」だのが、たとえ建前に過ぎなかったとしても、それが店の方とのコミュニケーションの入口になるはずだ。そう信じることにした。


店内の様子はネットに画像がいくらでもあるので怯みはしない。が、全く初めての客に対するお店の方のほんの一瞬の、だが彼女でなくても隠しようのない「間」が、私を怯ませた。

まず目当ての「山羊刺し」をたのみ、そしてメニューに「泡盛」とあったのでそれをたのむ。すると、いくつか種類があるという。何があるかたずねたら、ブランドを7,8列挙された。

困った。私は普段泡盛は全く飲まない。で、結局「残波」をたのんだ。「残波」なら聞いたことがあったし、商店街の入口にも看板があった。

つまり私の沖縄に対する知識はその程度なのだ。しかもお店の方に「ザンクロですね」と訂正されてしまった。黒白なんてあるの?知りませんでした。普段は歴史やら基地問題やらで、沖縄の人々に思いを寄せるなどと口先では言っておきながら、実際はこの程度である。私の悪い意味での左翼的な部分を、こんなところでさらけ出してしまった。

しかも、お店の方が「頃合いでストップと言ってください」と言ってグラスにザンクロを注ぎ始めた。もとより、普段泡盛など飲まない私に加減のわかるはずがない。お店の方が、え?まだ?みたいな気配を見せたところでストップと言った。


ド素人だな、完全に。


そして「山羊刺し」が感動的に旨い。独特の食感も含めて、永遠に食べていたいと思ったくらい。満足の吐息が鼻から漏れた。

お店には中国系の女性が小上がりに3人。そして私が「山羊刺し」を注文した後すぐにそれなりのお年を召した男性が入ってきた。彼はカウンターに座り、「汁」とのみ言った。つまり、「山羊汁」を注文したのだ。そして山羊汁が出てくるのを見計らってご飯を注文し、さらに「フーチバー」を追加してもらっていた。 「フーチバー」は、ご存知の方も多いとは思うが、沖縄の伝統的農産物の1つで、ハーブみたいなものだ。私はその魅力を少しは理解しているつもりだが、やはり本質的にはちと苦手。しかし彼は山盛りで受け取っていた。

もうお分かりだろう。彼はプロだ。「観光客大歓迎」の店に現れた大ベテランなのだ。しかも彼はおそらく七十余年前にこの島に吹き荒れた「鉄の暴風」をご存じだ。その事を考えると身の引き締まる思いがした。私も彼に習って、山羊刺し(凄かった)のあとは山羊汁とご飯をたのんだ。

私に山羊汁が提供されるのに前後して、彼はご自分の「汁」とご飯を平らげ、会計を済ませて去っていった。「ごちそうさま」と言った後に続けたゲップすら私には老練に聞こえた。


私はというと、出てきた山羊汁に怯んだ。山羊刺しとセットでは明らかに山羊過剰である。そしてやはり汁物だと刺身の時は感じなかった山羊の「臭み」が、どうしても出てくる。しかし、「残す」などという選択肢は私の頭にはなかった。我々ナイチャーは、1609年、薩摩藩の琉球侵略以来、どれ程の苦難をこの島の人々に味わわせてきたことか。そして今も、沖縄の人々が何度選挙で民意を示そうと頑なにヤマトの都合を押し付けようとしている。日本国憲法第92条「地方自治の本旨」はどこへ消えたのか。

そうこうしているうちに、中国系のお三方が会計を済ませる。ぴったり5千円である。彼女たちもプロであったか!

私はと言えば、刺身・汁・ご飯・ザンクロで3100円。最悪だ。運良く小銭があったから良かったが、紙幣は羽田空港第2ビルの三井住友銀行ATMでおろした一万円札しかなかった。

普段旅慣れしているような風を吹かせて、この程度である。観光客としての自分のレベルの低さを、今夜はいたいほど思い知らされた。

ホテルに帰る途中、「月桃」という魅力的な店を見つけて沖縄そばを食べた。

こういう店は旅先では見つけ次第入ることに意義がある。こういう店で食べる沖縄そばは別腹なのだ。

すばらしい、本当にすばらしい夜だった。

俺は今日、沖縄にいる。明日も明後日も明々後日もである。

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