教員(公務員)が安保政策を批判してもいい理由(2015年の文章)

2015年12月19日にT-nsSOWL west高校生デモin大阪のデモ前集会でスピーチした直後、報道記者から取材を受けた。
「先生、大丈夫ですか?」

きっと「中学校の先生がこんな政治的なスピーチをデモ前の集会でして、仕事に影響はないのだろうか」と心配をしてくれたのだろう。それは僕自身もスピーチ前にずっと考えていたことだった。そこで「教員の『政治的活動の制限』とは一体どんなものなのか」を改めて調べて、僕は「大丈夫」と確信をもってスピーチをした。
僕だけではなく、今の政治状況に危機感をもつ教員は多いと信じている。その「仲間」が声を上げたいと思ったとき、萎縮して自主規制をしないように、「大丈夫」と自信をもてるように、その根拠をここに書こうと思う。

一人でも多くの「仲間」に伝わるように。


日本国憲法 第十五条2「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。 」
教育基本法 第十四条2「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」

これが教員の「政治的活動の制限」の根拠となる。ただ、これだけではその「政治的活動」とは何のことかははっきりわからないだろう。

教育公務員特例法によって、公立学校の教育公務員の政治的行為の制限については「国家公務員の例による」とされているので、
国家公務員法 第百二条「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」
とあるが、ここでも「政治的目的」や「政治的行為」は具体的ではないので、「人事院規則」を見ることになる。
人事院規則一四―七(政治的行為)には、「政治的目的の定義」として8項目、「政治的行為の定義」として17項目が挙げられている。

この辺りで、「なんだか複雑すぎてよくわからない。とにかく政治に関わることは避けたほうがいいだろう」と考えてしまう教員(公務員も)は多いだろう。教員以外の一般の人にも「学校の先生や公務員は、投票以外の一切の政治的行為を禁止されている」と思い込んでいる人は多い(実際Twitterでもそういう批判が何度もあった)。
しかし、諦めずに「人事院規則一四―七」とさらにその「運用方針について」まで丁寧に読んでいけば、それがただの思い込みで、逆に教員の「政治的活動の制限」は限定的なことがわかる(本来はそこまでしなくても誰にでもわかるようにするべき)。


教員である僕がデモ前の集会で「安保法制に反対する」というスピーチを行ったことを例にして具体的に考える。

人事院規則には、政治的行為として「十一 集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。」とあるので、デモ前の集会でのスピーチは禁止されているように見えるが、それが政治的目的を有するものでなければいい。
政治的目的とは、まず「選挙において、特定の候補者を支持し又はこれに反対すること」「特定の政党その他の政治的団体(内閣)を支持し又はこれに反対すること」であり、僕はスピーチ中で特定の候補者・政党・内閣を支持(反対)してはいない。

また、政治的目的として「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること」ともあり、スピーチ中の「安保法制に反対する」はまさに特定の政策に反対しているではないかと思われる。しかし「政治の方向に影響を与える意図」とは、運用方針で「日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとする意思」のこととされ、僕にそんな意思があるはずもない。
「憲法や民主主義を守ろう」は、もちろん主張していい。

また、政治的目的として「国の機関又は公の機関において決定した政策(法令、規則又は条例に包含されたものを含む。)の実施を妨害すること」とあるが、これは運用方針で「組織的、計画的又は継続的にその政策の目的の達成を妨げることをいう」とされ、はっきり「単に当該政策を批判することは、これに該当しない」とあるので、僕がスピーチ中で安保法制を批判することは全く禁止されていない。


ここまで見てきたように、教員の「政治的活動の制限」は確かにあるが、例えば教員である僕がデモ前の集会で「安保法制に反対する」とスピーチすることは禁止されていないことがわかる。もちろん、デモに参加することも禁止されていない。

ただ、ここまで考えなければ教員は政治的な主張をすることさえできないとすれば、その状況自体が人事院規則の運用方針にある「この規則が学問の自由及び思想の自由を尊重するように解釈され運用されなければならないことは当然である」という言葉に反しているだろう。
「とにかく政治に関わることは避けたほうがいい」と萎縮するのではなく、教員(公務員)でも一人の人間として考え判断し行動することができるように、規則の見直し等を含めて、教員自身が学び声を上げていくことが必要である。政府にただ従うことが教員の仕事ではない。教員を含む公務員は政府の奉仕者ではなく、「全体の奉仕者」なのだから。


最後に、僕と同じ教員の「仲間」へ。
スピーチでも触れたように、公務員には憲法尊重擁護義務(憲法九十九条)がある。この仕事に就くとき、あなた自身が誓ったはずだ。だからその憲法が軽視され、民主主義や立憲主義が危機あるとき、教員であるあなたこそ声を上げなければいけない。
そして、それを判断するのは政府でも文科省でも教育委員会でも学校でもなく、あなたしかいない。そのことを教員一人一人が自覚しなければいけない。
なにより、あなたの目の前にいる子どもたちを守るために。

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