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私が「イクメン」を嫌いな理由

はじめに

厚労省の「イクメンプロジェクト」の一環として行われている「イクメンスピーチ甲子園」のエピソード募集を見てしまったので、この文章を書いています。優勝すると「イクメンの星」に認定されるのだそうです。

今、2021年ですよ?

あまりの時代錯誤に思わず笑ってしまいました。しかし、ただ笑って終わりにしてはいけない問題もここには潜んでいると思うので、以下に「私が『イクメン』を嫌いな理由」を書いていきます。そして、厚労省の「イクメンスピーチ甲子園」に送ろうと思います(これが選ばれるはずはありませんが、こうした声にも耳を傾けてほしいという願いを込めて)。


「私が『イクメン』を嫌いな理由」

私はよく「イクメンだね」と言われます。同僚や知人、店員さんや道ですれ違っただけの人からも。もちろん善意で言ってくれているのはわかりますが、私はその度にモヤモヤします。その理由は主に2つあります。

1つ目の理由は、「イクメン」が「(“普通“は女性がするはずなのに)育児をする男性」を意味していることです。女性が子供を連れて買い物をしているだけで、私が経験したように「お父さんなのに偉い、イクメンだね」などと褒められることはおそらくないでしょう。そこには女性は育児をして当たり前、男性が育児をするのは特別なことという偏見があります。「イクメン」が流行語大賞にノミネートした2010年にはまだそうした意識があったのかもしれませんが、今や女性に育児を押し付ける社会の構造や意識が10年以上も変わっていないことを表す残念な言葉になっています。政府が行うべきは男性に「イクメンの星になれ」(女性に「産め、活躍しろ」)と発破をかけることではなく、根深い性差別を認めて是正のために行動することでしょう。

2つ目の理由は、「イクメン」が「(あまり育児をしない“普通“の男性に比べて)育児をする男性」を意味していることです。男性の育児家事時間が極端に短く育休の取得率もなかなか上がらない今の社会では、ちょっと育児を“手伝い”数日間の育休をとればすぐ「イクメン」の仲間入りです。私自身、仕事が忙しく育児家事があまりできない時につい「他の男性に比べれば自分はマシ」などと考えてしまう時がありました。しかし私がほんとうに向き合うべき相手は、データ上の姿の見えない「“普通”の男性」ではなく、共に育児をする目の前のパートナーや子どもなのです。いくら「イクメン」と他人から褒められようと、パートナーや子どもを尊重していなければそれは独りよがりの空しいものです。これまで育児と仕事を両立にするために工夫して、現在は主夫として育児をしていますが、私が「イクメン」を自称することは今後もないでしょう。

最後に、「イクメンスピーチ甲子園」が今年で終わることを願っています。


おわりに

「イクメンスピーチ甲子園」のエピソードは800字以内という指定があって、かなり短くまとめているので伝わりづらい部分があると思います。結局私が最も嫌っているのは、他者から言われる「イクメン」ではなく、性差別を無意識に黙認したり他の男性と比べて自分を正当化したりする私の心の中にいた「イクメン」なのです。
ただ育児をする男性が「イクメン」とチヤホヤされる時代はもう終わりにして、男性はもちろん社会が正面から「育児」と向き合うことを心から願っています。

上記の文章を指定字数に合わせて少しだけ短して厚労省「イクメンスピーチ甲子園」に応募しました。


鬼頭暁史



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