エトナとスーパータスカンの類似点?

「いまエトナで起こっていることは、かつてのボルゲリと同じだよね」

1970年代からイタリアの品質の高いワインだけを輸入し販売している知人が、こう言いました。ここで言われているボルゲリとエトナの類似点は、その土地で造られるワインのブーム、その現象についてです。

「ああ、そういう見方もあるよな」と興味深く思いましたので、エトナ山のワインの世界で起きたことをざっとご紹介するのに、ボルゲリの例と比較してみたいと思います。

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イタリアワインをあまりご存じない方でも、サッシカイア、オルネライア、アンティノーリというワイナリーの名前、またスーパータスカンという言葉は耳にしたことがある方も多いでしょう。ボルゲリとはトスカーナ州の沿岸部、リボルノ県カスタニェート・カルドゥッチ市にある小さなDOCです。スーパータスカンとは、トスカーナ州のかつてのワイン法とは別のコンセプトで、いわゆる国際品種のぶどうでつくられるワインで、ボルゲリ地区で主に生産されるワインです。

誤解のないように申し上げれば、もちろん、エトナ山とボルゲリでは、土壌や気候、ぶどうなどの自然や気候条件など根本的な部分は大きく異なります。

エトナがネレッロマスカレーゼやカリカンテなど土着品種が中心であるのに対し、ボルゲリはボルドー品種であるカベルネソーヴィニョン、カベルネフラン、メルローなどがほとんどですし、土壌も火山性土壌であるエトナに対し、ボルゲリはいわゆる海洋性土壌であり粘土質および砂質です。また、エトナは紀元前ギリシャ植民時代にワイン用のぶどう栽培が始まったのに対し、ボルゲリはつい数十年前まではぶどう栽培に適さない地だと考えられていました。

それでは、エトナとボルゲリの類似点であるブームについて。簡単に両者をざっと時系列でみてみたいと思います。

まずはボルゲリ。1978年、当時デカンター誌にいたワイン評論家ヒュー・ジョンソンが、カベルネ・ソーヴィニヨン32種のブラインドテイスティングのイベントを催しました。その中でテヌータ・サン・グイドのサッシカイア1972年がボルドーの錚々たるシャトーを抑え、最良だと評価されたのを契機に、一気にサッシカイアの、そしてボルゲリの名が世界的に有名になりました。

それ以前のボルゲリといえば、トスカーナ州の中では海洋性気候であり、ブドウ栽培には適さないとされていました。ワインは生産されていましたが、主にそれほど名のない生産者が白やロゼをつくっていたそうです。また、サッシカイアのための最初の葡萄畑は1944年に造成されていますが、あくまでオーナーの個人的な嗜好の自家消費のためにワインが造られたそうです。

その後、アンティノーリ家のロドヴィコ・アンティノリ氏よりオルネライアが設立されます。ブドウを植えたのは1981年、初ヴィンテージは1985年。ワイナリー建設は1987年とされています。

ボルゲリの(スーパータスカンの)、ブームは70年代末から始まり、80~90年代と考えて良いでしょう。


一方、エトナ。前述のように、紀元前ギリシャ植民時代からずっとブドウ栽培やワイン造りは存在していましたが、国際的なワイン市場で評価されることはありませんでした。地元の人の話では、1980〜90年代頃は、手のかかるブドウ畑を捨て、オリーブやヘーゼルナッツの畑に転換した人も少なくなかったということです。

2000年代初頭、トスカーナのワイナリー、テヌータ・ディ・トリノーロのユダヤ系イタリア人のアンドレア・フランケッティ、バローロ改革で名高いワイン商イタリア系アメリカ人のマルコ・デ・グラチア、ベルギー本国で高級ワイン商をしていたベルギー人のフランク・コーネリッセン (手前味噌ですみません)が、偶然にもほぼ同時期にやってきて、エトナ北山麓でワイナリーをスタート。この頃、東山麓にあるベナンティでワインを造っていたサルボ・フォーティも独立してワイナリーを始めています。

その後、ミラノで金融業界にいたカターニャ出身のアルベルト・アイエッロ・グラーチが2004年、ジュゼッペ・ルッソ(ワイナリー名はジローラモ・ルッソ)が2005年と続きます。

これらの人たちは、高い品質のエトナワインを一気に世界的に有名にした人物であり、エトナワインのルネッサンス(再興)を引き起こした中心人物といえるでしょう。

その後、2010年前後からは、シチリア島内の大手ワイナリー(Cusmanoが2013年、Donnafuggataが2016年, Planetaが2009年, Tasca d'almeritaが2007年)の進出。

また、カターニャやエトナ出身の起業家達による相次ぐワイナリー創業。さらに、海外やイタリア他地域からの進出(Gaia (Graciとのジョイントヴェンチャー)、バローロのDavide Russo , イータリーのOscar Frinettiなど)が続きます。

また、ワイナリーで働いていた人や地元のぶどう農家が小さなワイナリーを新設している例も多くあります。

現在、エトナDOC協会に登録しているワイナリー数は122ですが、登録しない人を含めると、ワイナリー数はエトナ山全体で150以上にはなるかと思います。

2000年代初頭から始まるエトナ山のワインの再興の動きは、すでに20年近くが経ちます。ボルゲリの1970年代末から90年代のブームとは、もちろんその内容をみれば全く異なるものの、土地のワインやそれを取り巻く業界の経済的および文化的な急成長そのものは似ているといえるのでしょうね。

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今後の記事で、エトナワインだけではない、経済的な部分だけではない、ワインにまつわるさまざまな文化的な側面もご紹介できるよう、頭の中をまとめてみます。


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