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外用剤の適正使用とスキンケアの指導により治療効果を上昇させた一例

小児薬物療法認定薬剤師の認定を継続するために、小児科の門前薬局で勤務していた際に取り扱った症例の記録を必須業務実績報告書としてまとめました。以下に、これらの症例についての詳細を記載しています。


1.対象患者背景

年齢:5歳  
性別:男児
体重:17kg      

処方薬|医薬品名・用法・用量

RP1.キンダベート軟膏 1日2回 顔に塗布
RP2.プロペト・リンデロンV軟膏 MIX 1日2回 胸・背中に塗布
RP3.ヒルドイドローション 1日数回 顔・胸・背中に塗布(寛解後)

処方薬の評価

ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎の炎症を鎮静する薬剤である(推奨度1、エビデンスレベルA)。乾燥がみられる本症の治療には軟膏を選択する。外用回数は1日1回でも十分効果があるが、急性増悪のため1日2回の塗布で寛解導入を目指す(推奨度1、エビデンスレベルB)。乾燥した皮膚には保湿外用薬を使用し、皮膚バリア機能を回復させる(推奨度1、エビデンスレベルA)。以上のことから、今回の処方薬の選択および用法・用量は適正であると判断できる。

介入前の治療経過

アトピー性皮膚炎で受診。これまで皮膚科などで随時受診し、外用剤で治療していたが再燃を繰り返していたため、アレルギー科を受診。外用剤はステロイド剤のため、できるだけ薄く塗り、症状が収まればすぐに中止していた。また、特にスキンケアは意識していなかった。

2.具体的な薬学的介入内容

薬学的介入をすべきと考えた理由|問題点など

外用剤が適正に塗布されていないため、寛解導入が不十分。また、症状が改善した後、自己判断で外用剤の使用を中止したため、再燃を繰り返している。

さらに、スキンケアを行っていないため、皮膚のバリア機能が低下。保湿が不十分なため、寛解維持ができていない。その結果、掻痒感によるQOLの低下がみられる。

薬学的介入開始後の経過|臨床値推移や指導内容等

1FTUの塗布量を指導せんを用いて説明。薄く塗ると炎症がひどく盛り上がっている患部にステロイド剤が行き渡らないため、1FTU量を守って塗布するように指導。

また、敏感肌用の石けんと正しい皮膚洗浄、保湿剤の使用が皮膚のバリア機能を回復させ、皮膚炎の再燃予防と痒みの抑制につながることを説明。

薬学的介入後の効果

患児の母親は1FTU量を理解し、適正にステロイド外用剤を使用。敏感肌用の石けんに切り替え、よく泡立たせ皮膚を擦らないように洗浄している。 寛解後は保湿剤をしっかり使用し、寛解維持ができている。

3.この事例に関する考察

処方薬の科学的根拠に基づいた評価

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016によると、アトピー性皮膚炎の治療方法は①薬物療法、②スキンケア、③悪化因子の除去である。治療目標は、症状がない、もしくは軽微で日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持することである。

薬物療法はアトピー性皮膚炎の炎症を鎮静するための治療であり、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏は有効性と安全性が科学的に十分検討されている。第2指の先端から第1関節部まで、口径5mmのチューブから押し出された量(0.5g)が英国成人の手のひら2枚分に対する適量である。日本で使用しているチューブの口径は5mmより細いが、1FTU(0.2-0.3g)に勘案してもよいと考えられる。この量をしっかり守らないと十分な治療効果が期待できないため、保護者にしっかりと理解してもらわなければならない。

皮膚バリア機能は角質が主な役割を果たす。①セラミドの角層細胞間脂質、②ケラチンやフィラグリンの代謝産物などを主成分とする角層細胞の実質部分、③角層細胞の細胞膜の裏打ちタンパクである周辺帯という3つの要素が皮膚のバリア機能の維持に重要である。乾燥した皮膚への保湿外用薬の使用は皮膚のバリア機能を回復させる。寛解後の保湿外用薬の継続使用は寛解状態の維持に有効である。

皮膚の炎症がおさまってからのスキンケアが本当の勝負といえる。寛解後もしっかりと保湿を行い、炎症の再燃を予防するため、重点的に指導する必要がある。

【参考文献(添付文書含む)】

1)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会
2)大谷 道輝  皮膚外用剤の基礎知識 マルホ株式会社


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