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ことばのハグだ、このあったかさは。西加奈子「くもをさがす」を読んで

西加奈子さんの書く文章が好きだ。主人公がどんな絶望の淵に立っていても、なんだか人間の奥の方から出てくるあったかいものがどうしようもなくじんわりとこちら側にも伝わってくる。どんな作品を読んでも、どんなテーマでも、西さんの言葉のあったかさに、なんというか「救われる」(急にチープになってしまう、いい言葉が浮かばないけれど…)ものがある。だから新刊が出ると、条件反射で買って読むし、今回はAmazonで予約をかけたら、まさかの発売当日に2冊届いてしまった。

でも、この本は、読めるかな・・・と、開くのが怖かった。
今回は西さん自身の癌の闘病の話だ。
私は、今、実の母が末期の、しかも脳の癌で、要介護4で寝たきりで、医療ではもうできることがなく、意識のレベルも低く、普通に「もう一回お母さんと普通に、はなしがしたい」ということが、もう、多分、叶わない。そんな状態にここ1年半くらいで急激になっていて、自分のことなのに、人ごとみたいに言ってしまうくらい、真正面から受け止めるのがきつい状態にある。

慣れてしまってきているつもりだけれど、パンドラの箱のようなもので、ふと、スイッチが入ると深いところに引き摺り込まれそうで、でも、2人の子供を抱えて生活をしていかなくてはいけないわけなので、グイグイっと奥の方に閉じこめながら、(本当はそれどうなの、だけど、なるべく母のことを考えないようにして)なんとか日々を過ごしている。

だから、癌の話題、どうなの、と。
よめるだろうか。と思ったけれど、読めた。
そしてもれなく、なんとなくあったかいもの、おっきいものに触れて、「あなた」には私も含まれていると思って、ちょっとだけ泣いた。

私自身が患者ではないけれど、それでもじぶんの母親のことなので、ちょっとあまりにも重たくてどこか離れたところから客観的すぎるくらい客観的に「厄年すぎるなあ」「しんどいな」くらいの感じで、遠くから眺めている私が、私のケアを頑張っている。という感覚がすごく、わかる。私と、母と、現実が全部まざまざとくると、だから、怖い。


そんな私にも、やっぱり、西さんの言葉はあったかくて、怖くて怖くてしんどい中のはずなのに、わざわざこっちのあなたにまで「生きる」そのまんまの体温のようなものを届けてくれて、なんだか、本当、ありがとうと伝えたくて、まとまらない言葉のままにこれを書き殴っている。

(寝なくちゃなのでこの辺りでとりあえず残すとして)

人生で唯一、ファンレターを送った作家が西加奈子さんでちゃんと手書きの葉書を返信をくれて、今でもそれは私の宝物だ。

この文章を届けてくれて、ありがとうございます。そう伝えたくて。一人の「あなた」として、ぎゅっとおおきなハグのように、ことばを受け止めました。

西さんの書くことば達のあったかさはなんだろう、と、考えていたら、「ハグが好き」と書いてあってなんだかつながる。きっと西さんは書くことで、見知らぬ「あなた」にも内側の体温をじんわりうつしてくるような、そんな、おっきなハグができる人なんだ、と、思う。

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