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地方クラブの理想像 Villarreal CF

11/6/2019にVillarreal CFのトレーニングコンプレックスを見学させてもらいました。そこで見た光景があまりに理想的だったので、しっかり忘れないうちに書き残しておこうと思います。私自身の今あるテーマに「ヨーロッパの知見を日本に伝える」ということがあり、是非シェアさせてください。

タイトルにもある通り、Villarreal CFは「地方クラブの理想像」足りえるクラブであり、地方クラブがベンチマークにすべきクラブであると言っても過言ではなく、その素晴らしさを是非日本にも伝えさせていただきたい。
もちろん私は実際にはLa LigaでもVillarreal CFでも働いたことはないですし、まだまだ全てのクラブを見たわけでもないので、第一印象、短い滞在時間でのお話であることは割引くべき所ですが、すごい感動があったのも事実なので、その感動を原動力に執筆します。

Jリーグ特任理事でVillarreal CFに12年お勤めの佐伯夕利子さんにご案内いただき、今回このレポートを書くこともご快諾いただきました。佐伯さん本当にありがとうございます!

Villarreal CFの概要

後々の説明用に参照するためにまずは、基本的な情報を載せておきます。全部WikiとGoogle先生の情報です。

街の概要:Wikipediaより抜粋

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位置関係(Google map)

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クラブ情報:Wikipediaより抜粋

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充実のトレーニングセンター設備

Villarreal CFには2つのトレーニングセンターががあります。
一つは駅の近くに「Ciudad Deportiva Pamesa Cerámica」。もう一つはメインの「Ciudad Deportiva Villarreal」です。
いずれの施設も近年新しく改装した施設で、練習環境としてはこれでもか!というくらいのピッチ面積を確保できており、また施設面でも充実しています。

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1.Ciudad Deportiva Pamesa Cerámica
・フルコート人工芝ピッチ 3面
・ロッカールーム25室(ピッチ側面)
・トレーニングルーム
・メディカルルーム
・2階:執務室、Canteen

主にユース年代が使用する本施設。人工芝ピッチが3面あり、スタンド付きピッチが一つ含まれています。施設もシンプルながら、必要機能をそろえており、これだけの広さと建物だけでも一つの中心的なトレーニングセンターになれそうです。

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(施設正面入り口。PAMESAはオーナー会社)

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(広々とした人口芝ピッチがフルコート3面。写真はスタンド付きグラウンド)

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(機能性の高い施設棟)

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(簡易的だが十分な広さのロッカールーム。これが25室)

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(トレーニングルーム)

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(メディカルルーム)

2.Ciudad Deportiva Villarreal
・オフィス1棟 
  -ビジネススタッフ、強化部スタッフ入居
・クラブハウス1棟
  -フルコート天然芝3面
    内1面が完全天然芝でトップチーム用、2面がハイブリット芝
  -フルコート人工芝2面
  -トップチーム専用施設:
    トレーニングルーム リハビリプール付き
    メディカルルーム
    ロッカールーム
    選手専用ホテル(クラブハウス最上階)
    トップチーム コーチ室
  -ユースチーム専用施設:
    トレーニングルーム
    メディカルルーム
    ロッカールーム
    選手寮(U13~U18)
    ユースチーム コーチ室
    ユース選手 学習室
  -その他施設:
    Cantina(食堂)
    他建物2棟

広い敷地内にフルコート5面、建物4棟を擁する充実の施設です。上記に見学して見聞きした施設項目を記載しています。
トップチームがもちろん投資優先対象ではありますが、ユース施設の充実ぶりがすごいです。一つの場所に、ビジネススタッフ、チームスタッフ、トップチーム、ユースチームが同居しているのはコミュニケーションという意味でもとても重要だと感じます。歩いて行ける距離にいるというのはそれだけで意思疎通を円滑にできます。
これでもなお、さらに現在は追加のピッチを建設中とのこと。。。  

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(トップ専用練習ピッチ。後ろに見える建物が見学したクラブハウス。4階建てで、最上階が選手用ホテル、2階3階に選手寮や食堂等、1階にトップチーム用の各部屋が入っています)

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(スタンド付きのハイブリット芝ピッチ)

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(人口芝コート)

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(天然芝コート)

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(分析スタッフオフィスルーム)

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(オフィス棟の様子)

ユース組織の在り方

これまでもクラブの方針としては「育成型クラブ」だったようですが、「これまでの育成方針の反省と見直し」が行われ、「育成改革」に着手したのが2014年となります。この改革の意思決定は現オーナーです。現オーナーは22年間Villarreal CFのオーナーを長期に渡って勤めており、この長期に渡るオーナーシップが長期的な投資や改革を可能にしています。通常、クラブオーナーは数年で変わってしまうことも多く、オーナー変更のたびにクラブ方針が変更になることが常です。
一貫したオーナー経営が成功した一例と言えるのではないでしょうか。


現在Villarreal CFには、エリートチーム、ローカルチーム合わせて95チームもユース年代に擁しています。上記で紹介した広大なピッチが必要になるのはこのチーム数の多さが起因していそうです。

クラブハウスデザインで重視したことは「オープンコミュニケーション」だそうで、コーチ室や食堂の「壁」を取り除きオープンスペースを作ることで組織毎の風通しを良くする環境を作っています。特にユースのコーチ室は固定デスクは一部の役職者のみへ支給し、それ以外はフリーアドレスで仕事をする環境になっています。
また、ユース年代の選手からすると、食堂やグラウンドで上のカテゴリーやトップチームの選手たちを生活レベルで近くに接することができます。選手たちとしては常に近くにトップへの道が存在し、しかしその隣の芝に行く数メートルが実際にはとても遠いという環境は、選手のプロ意識を自発的に育むには素晴らしい環境だと思えました。

そして、Villarreal CFのユース育成方針には人間形成が大きな比重を占めていると教えていただきました。サッカー技術だけでなく、普段の生活態度・習慣、学力の向上、といった私生活に関わる人間形成に力を入れており、より個人毎にパーソナライズされた教育を行っています。そのために下記のようなものを取り入れています。

・補修学習の先生を雇っている。
  -地元で提携している中学・高校の先生と連携
  -コーチ、クラブの先生、学校の先生で生徒それぞれの個別情報を共有している
・補修学習専用の自習室と授業部屋を用意している。
・寮には生活指導の先生を雇っている。
  -部屋の清掃や整理整頓などの生活指導を徹底している
・心理カウンセラーや心理学の先生を雇っている。
  -大学とも協力し、10名ものカウンセラーを雇っている
・選手自身にプレー動画の分析を実施させている
  -PCでの動画編集を教え、自分自身で考えて分析できる力を養わせる
・1on1を選手・コーチで実施し、より個人の成長にフォーカスする

上記のような手厚い体制のために、必要な人員を雇用しています。このユース改革により、今まではコーチングスタッフもフルタイムではなかった人たちも、選手個々へのきめ細かなケアが必要になり、労働時間が増えたことで、U13~U23のコーチ全てをフルタイムで雇っています。

また、学習指導や生活指導を行う前は、いわゆるサッカー偏重の指導であったため選手たちの学習意欲、生活態度も悪い子も多く、中学、高校の先生方からの評判が悪いことが多かったのですが、ユース改革後は中学、高校の先生方とも良好な関係を構築でき、前向きに選手たちの情報共有に協力してもらえるようになったそうです。

サッカーのトレーニングメソッドとしては、今は主流になった「Method Director」をいち早く設置し、ユースからトップチームまでのチーム戦術とトレーニングのメソッド構築を実施しています。
Method Directorは「コーチのコーチ」という役割を担っており、コーチスタッフを育成し、そのコーチたちが選手たちを一貫指導する体制を構築しています。
その成果が、近年のLa Ligaでの好成績やELやCLへの出場に見られる国際大会への進出に繋がっています。
現時点でもユース出身選手をトップチームに11人擁しており、ユース年代においては各年代スペイン代表に1人以上の選手を輩出しています。これはバルセロナと並びスペイントップレベルの成果です。

ユースコーチ自体もいわゆるホームグロウンのコーチ育成になることで、より強固なメソッド構築を可能にしています。

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(ユースコーチ室。フリーアドレスで風通しを良くしている)

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(寮の部屋。整理整頓を指導されている。またクラブカラーをしっかり取り入れ、クラブ愛の醸成も行う)

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(寮の部屋の窓からはトップチームのグラウンドが見える)

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(プレー分析用のPCを選手用に用意している)

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(洗濯とアイロンは全て寮スタッフが行ってくれる。日本人としては洗濯物の管理も生活指導に入るかもしれないが、そこは文化の違いか)

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(自習室)

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(補修学習の先生の部屋)

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(食堂もオープンスペース。社員、スタッフ、選手全員が利用する)

国際部の活動

今回、佐伯さんの他に国際部の方々にもご案内をいただきました。

Villarreal CFの国際部は、国際大会への出場機会の増加、Villarreal CFのメソッドの国際輸出、海外提携やビジネスのために数年前に発足した組織だそうです。

中国や韓国、アメリカ、スウェーデンのプロ、アマチュア問わず提携をして、Villarreal CFのメソッドを提供し、Villarreal CFのグローバル進出を進めています。日本では茨城県の鹿島学園が提携をしているようです。

紹介HPはこちら↓
https://www.villarrealcf.es/en/villarreal-academy/experiences-programs

自ら築いたメソッドで自チームの成果を最大化するのはもちろん、そのノウハウの提供をビジネスにまで昇華していることが本当に素晴らしい。

理想的な地方クラブの在り方

Villarrealの人口はたったの5万人です。オレンジ栽培が盛んで、工業地帯に位置しています。Valenciaという大きな都市に隣接し、Valencia CFなどの競合もいる環境の中、この人口規模の地方クラブがLa Ligaでこれほどの地位を近年築き上げている、という事実が「理想的な地方クラブの在り方」という言い方に繋がっています。

オーナーの会社はセラミックタイルの大手ですが、人口も小さく、交通機関も発達しているとは言い難いこの小さい町で、2018-19シーズンの平均観客動員を16,660人記録し、リーグ上位に位置し、国際大会を戦っています。年代別スペイン代表、スペイン代表選手をユース出身選手から輩出し、育成型クラブとしての成功を収めています。

この小さな町でこれだけのものが作れるという事実は、全ての地方クラブがベンチマークとしておくことのできる成功例ではないかと思っています。

特筆すべきは、ユース年代の選手の人間形成教育に主眼を置いていること。プロになれない選手が大半を占める以上、いかにサッカー以外の人生を豊かに送ってもらえるか、が重要になります。ここで育った子供たち自体にも親、兄弟、祖父母、親戚がおり、これだけでも大きなVillarreal CFのコミュニティになります。
そして、ここで育った子供たちが大人になり、しっかりとした教育により経済力をつけ、家族を作って、またVillarreal CFにファン・サポーター・選手・スポンサー・社員・スタッフ等として帰ってきてもらう「循環型のコミュニティ経済圏」を構築できていると感じています。

ここで私が書く「循環型のコミュニティ経済圏」こそが私自身が目指すものであり、その理想像がこのVillareal CFにはあると感動しました。

地方クラブは人口規模、周辺経済規模、交通機関の環境などどれをとってもやはり大都市クラブに及ばない中でいかに互して戦っていくのか。
Villarreal CFのような地方クラブが示す「選択と集中」+「継続性」によって、少ないリソースを最大化することができるという事実が、全ての地方クラブに勇気を与えるものであると思っています。

(余談)Philosophyとは?

これは最近感じていることなんですが、「Philosophyを構築する」という言葉には、作り方が二つあるという考えが浮かんできています。

1.最初に今までの歴史や経緯分析から「Philosophy」を明文化し、それに基づいて将来の意思決定を行う

2.長期的なオーナーシップから、オーナー自身の人格により下される意思決定の集積が、振返って「Philosophy」と呼ばれるものになる

1はオーナーの無いような組織での構築方法で、2は強力なオーナシップを長期に渡って継続できる組織での構築方法になるのではないかと思っています。たぶんこういう研究している人は既に何人もいると思うので、書籍化とかもされていそうですが、自分自身が感じていることです。

今までは「1」の事ばかり考えていたのですが、Villarreal CFを今回見学し、お話を伺ってみて「Philosophy」の作り方っていうのももっと色々なやり方があるのではないか?と思い始めました。

1と2があるなら、そのミックス中庸となる第3もあるんでしょう、全く違ったアプローチもあるんでしょう。もっと研究したい。

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