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意外と知らないヨーロッパのリーグ考察~ポルトガル編~

「意外と知らないヨーロッパのリーグ考察」というタイトルにあるように、5大リーグ以外のヨーロッパのリーグについて、公開されているレポートを発見できたものについて、まとめていきます。
 今回はポルトガル編です。

SHC4期生の長谷川諒(さんと、同じく4期の松行英人(Twitter:@eitomatsuyuki )とともに考察いたしました。

レポート概要

本レポートはLiga Portugalが毎年発行しているシーズンの事業計画をまとめた2018/2019レポートです。
主に「リーグの財務諸表」「リーグの事業計画」のプランを記載しているため、各クラブを合計したリーグ全体の財務数値であったりは載っていません。
Jリーグが発行するPUB Reportのように、リーグとしての事業計画を公に公表する目的があるように見受けられます。

今回はこのレポートを見ながら、主にJリーグとの比較を行いつつ、ポルトガルリーグがどういったところなのかを見ていきたいと思います。

Liga Portugalの概要

FCポルトやSLベンフィカ、スポルティングCP(ビッグ3)などのヨーロッパの中でも強豪クラブが存在するポルトガルリーグは、これらのクラブがチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグでも活躍していることから、日本でも海外サッカー好きであれば、知っている方も多いのではないでしょうか。
最新のUEFAリーグランキングでは6位に位置し、ヨーロッパ5大リーグに次ぐ競争力を誇っているリーグです。クリスティアーノ・ロナウドというスーパースターの母国であり、代表チームも前回のEUROを勝ち取り、最新のFIFAランキングでも6位になるなど、強豪国として知られています。

Wikipedia情報

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Jリーグとの比較から見えてくるもの

今回のレポート(合計128P!!)の内容を、日本(Jリーグ)との比較を主に行いながら、その特徴を見ていきたいと思います。

ポルトガル GDP:2,176億USD 人口:1,029万人
日本    GDP:4.872兆USD 人口:1.268億人
(Google検索より)

まず、国としての経済規模の比較では、GDPは約20倍、人口は約10倍の違いがあります。

Liga Portugal
1部チーム数18チーム
2017-2018 総観客数3,655,213人 Ave.11,945人
2017-2018 リーグ総収入431M€(≒517億円)120円/€ ☆移籍金除く※1
(※1参照:Annual Review of Football Finance 2019
Jリーグ
1部チーム数18チーム
2018年 総観客数5,833,538人 Ave.19,046人
2017年 1部リーグ総収入735億円 ☆移籍金含む※2
(※2参照:2017年度J1クラブ決算一覧)

次に、リーグの観客動員、収入規模を比較してみます。観客動員で見たとき、人口比率で考えるとポルトガルは約36%の人間がのべ観戦している計算になりますが、日本は約5%の人間がのべ観戦者数となり、国内におけるサッカー人気はポルトガルでは高いことが伺えます。
また、1部リーグの総収入で見たとき、移籍金収入を織り込んだ場合、ポルトガルリーグの方が財務結果でもJリーグと同等、もしくは高くなることが予想されます。(2019年にはジョアン・フェリックスが約158億円で売却されている)

Liga Portugal放映権
放映権は包括契約ではなく、クラブ個別に締結しているようです(Number記事より)。それにより、全放映権のうち3分の2を上位3チームが占めているようで、225M€(≒270億円)のうち、180億円を3チームで分け合っている計算になります(参照:Annual Review of Football Finance 2019)。このビッグ3の予算規模が70M€~90M€とも言われており、残りのクラブが5M€~10M€程度とも言われていることを考えると、「不均衡」がかなり進んでいるリーグであることが伺えます。また、包括的放映権についてリーグ提案をビッグ3が拒否できるほどに、リーグの力は弱い立場にあることが想像できます。
一方、JリーグはDAZNと総額2100億円の10年間の包括的放映権契約を締結しています。

デジタルマーケティング
Facebook: Liga Portugal 73,302    / Jリーグ 225,074
Twitter:   Liga Portugal 362,416  / Jリーグ 537,693
Instagram: Liga Portugal 268,000  / Jリーグ 292,000
(調査時点数値)

デジタルマーケティングのFollower数比較において、人口規模からして10倍の大きさのJリーグが大きくなるのは必然ですが、Facebookが3倍、Twitterが1.5倍、Instagramが同数、という比率を考えれば、ポルトガルリーグの人気の高さがうかがえます。

顧客データベース
P80を参照すると、データベースを構築したマーケティングデータ管理の概要が説明されています。ERP、CRMシステムを整備し運用しているとのことですが、システムの開発部署を設置しているようです。
また、さらに独特な点としては、選手登録、選手移籍に関する情報、代理人・スタッフ情報を管理するプラットフォームを開発している点です。これは移籍金ビジネスがリーグの生命線であること、管理コストへの投資が中小クラブでは難しいことから、リーグが取りまとめを行っているのではないか?と想像します。
この管理、運用のために、法務部、開発部が整備されているようです。

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Jリーグもマーケティングについては、同様の取り組みを実施しています。

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メディア運用
Liga Portugalは独自に映像を作成してHPとYoutubeで公開しているようですが、この運用についてはJリーグに軍配があがりそうです。これは、リーグ自体が放映権管理をできない状況にあることも起因しているかもしれません。

Liga TV(You tube):
  登録者(不明)
  チャンネル設立 2007/12/17
  総再生数 169,913回(データ取得時点)
Jリーグ公式チャンネル(You tube):
  登録者数 49.3万人
  チャンネル設立 2010/03/06
  総再生数 366,049,768回(データ取得時点)

リーグ財務数値
Liga Portugalは近年5ヵ年の事業計画を作成し、慢性的な赤字の解消と財務体質の改善を行っており、その甲斐あり、PLは売上収益、利益ともに改善されています。放映権を含まない場合には、Jリーグと比較したときのポルトガルリーグの予算規模は4分の1ほど、といったところでしょうか。

-Liga Portugal 2018-2019のリーグ予算
売上:17M€(≒20.4億円) 費用:15M€(≒18億円) 120円/€
(放映権収入はリーグ収入に含まず)
過去5年間において、赤字体質からの脱却を図る。

-Jリーグ 2018年度決算
経常収益(売上):268.7億円 経常費用(費用):267.3億円
内、放映権収入177.9億円 / クラブ分配金141億円


人材育成
人材育成についても言及されており、ポルト大学と協力して、スポーツマネジメント人材育成のコースを設置しています。これはJリーグでも同様の取り組みを実施しており、やはりスポーツビジネスのための人材育成をリーグとして取り組んでいかなければならない課題は両国とも存在しているということだと思います。

Postgraduate Course Organization and Management in Professional Football (3年前に設立)

Sports Human Capital (3年前に設立)

(Jリーグのデータ参照先:J league PUB report 2018

ポルトガルリーグ考察まとめ

今回の考察の結論としては、「格差が行きつくところまで行きついているリーグ」であることです。
最初は欧州6位のリーグということで、リーグ自体も大きなリーグで5大リーグに次ぐ先進性があるのか、という印象でした。しかし、最初に持っていたポルトガルリーグの印象から、ガラッと変わりました。リーグとして強力なコンテンツを作り出せない代わりに、数クラブに資源、権力が集中することで国としての国際コンペティションでの存在感を高める究極系の形のように感じます。80年の歴史あるリーグのタイトルを5クラブ(特に3クラブ)で独占しているのもそれを表す好例です。

もちろん、サッカー自体の人気はSNSフォロワーや観客動員から見ても高いと想像しますが、リーグとしての価値をどう高めていくのか、難しい局面に来ているのだと感じます。特に1990年代後半からヨーロッパサッカーに起こった経済的成長につれて、より経済的格差が進行して行ったのではないかと想像します。

代表選手の出身クラブを見たときにも、ほとんどの選手はビッグ3のユース出身のようですし、若年層からビッグ3への選手引き抜きもかなり起きているようです(Transfermarkt ポルトガル代表一覧)。

格差が広がるとこうなる
-メリット
 国際コンペティションでの結果を出せる(クラブ+国代表)
 スーパースターを生む可能性が高まる(クリスティアーノ・ロナウド、ルイス・フィーゴ等)
 選手にとってのステップアップが明確(ビッグ3⇒5大リーグへの移籍、CL・ELへの出場)
-デメリット
 ビック3以外のクラブの衰退(選手への給与未払等も発生)
 リーグとしての魅力の減退
 リーグとしてのガバナンス欠如(ビッククラブの発言権がリーグより大きい)
 

リーグとしては、格差縮小へ舵を切っていきたいはずですが、そのリーグ自体も財務体質をようやく再建したところのようですし、まだまだ道半ばという印象です。

これだけの格差を国内でつけてなお、ポルトガルリーグがステップアップリーグ、ビッグ3クラブがステップアップクラブであることに、やはりサッカーのグローバルヒエラルキーの強大さを改めて思い知らされます。。。

翻って日本のJリーグが同じように「格差」を追求することが正解か?というと、ここまでの「格差」にならないようにしなければならないとも思います。しかし、「格差」が作る「競争力」にはしっかりと目を向けていかなければならないですし、そのバランスを作っていかなければならないと考えます。

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