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【詩】触れられずに

抱きしめられて死ねなかった
禍(まが)の人
最後に見たのは
冷たい天井
耳にしたのは
体に繋がれた
機械の音

寂しかったろうに
心細かったろうに

人の気配も感じることも出来ずに
何万人も死んでいったんだよ
もう忘れてしまったのかい
ほんの3年前の
隣に座っていた恐怖は
笑い声と
夜の街に
消されていった

手を握ってほしかった
枕元で私を呼んでほしかった
涙の熱を傍で感じたかった
袋に密閉されて
事務的に燃やされて
骨壷に姿を変え
やっと
抱きしめられた
もう私に
目も
耳も
口も
ないから
伝えたかった言葉を
声に
出来ない

アフターコロナ
気色の悪いカタカナ

顔色を窺いながら増えていく
野生から
惰性へ
喉元
過ぎてく
雨が降っています
声の代わりに
悼んでいます

抱きしめられて別れたかった

触れられることも
許されず

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