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誰のための弔い

 「マイ・ブロークン・マリコ」めっちゃ面白かった。

 話の核となる部分は激重なのに、淡々としてるというか、むしろシュールで笑えるところが多かった。
 主人公のシィちゃんがいい感じにやさぐれてて、セリフも独特で好感が持てる。個人的には、「直葬」「産地…?」ってところと、「死んでちゃわかんねぇだろ!」ってところがたまらなく好きだった。

 回想のマリコが、最初は他愛ない会話や微笑ましい姿が描かれているのに、記憶が掘り起こされていくうちに彼女の癒やしようのない傷やゾッとするほどの闇が見えてくる。長年の虐待からくる愛着障害とかミュウハウゼン症候群とか、そういうのかな。

 彼女の家庭環境は壮絶で、そこは同情するけど、「彼氏作ったら死んでやる」とまで言って目の前でリスカして脅してきたくせに、自分は男作ってけろっとしてるのが単純にむかついた。でもシィちゃんはめんどくさいって思うだけで、突き放したりは絶対しないんだよね。マリコはそれをわかっているくせに試さずにはいられないんだよ。こういう人、いるよなぁと思った。

 シィちゃんはずっとマリコを助けたかった。でもマリコは明確に助けを求めはしなかった。深く傷つけられた時だけ慰めてもらいに来るだけで、「一緒に住みたい」とか言いながらも本気でそうしようとは言ってこない。
 そもそもマリコは救いなんて求めてなかったんじゃないかと思う。「割に合わない」というセリフからも、今までの苦痛が自分のせいじゃなく、単なる不運なんだとしたら、それこそ耐えられないと感じていたんじゃないか。

 崖?で助けを求めてきた女子高生に、シィちゃんはマリコの姿を投影する。シィちゃんはマリコに、助けてって言ってほしかったんだろうなぁ。だからこそ、女子高生からお礼の手紙をもらった時に、ようやく彼女の弔いは終わったんだと思う。人はちがうけど、求められて、ちゃんと救えた。
 このシーンでわたしはちょっと泣いた。

 マリコが自殺した理由がはっきり描かれなかったのは良かったと思う。なんとなく想像はできるし、今さら知ったところで、シィちゃんにまた新たな後悔が生まれるだけだし。
 最後の手紙には、たぶん、これまでもらった手紙と同じようにとりとめのないことしか書かれていなかったんだと思う。シィちゃんの笑顔と、それから堪えきれずに泣くところが印象的だった。

 弔いって、死んだ人に対して生きてる人がどう納得するかってことなんだと思った。
 原作ではどんなふうに描かれているんだろう。気になるから買ってみようかな。

 余談だけど、中学生のシィちゃん役を演じた佐々木告さんという俳優さん、腰抜かすほど演技うまかった。煙草吸う姿もさまになってるし。

 やっぱり邦画って面白いや。

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