新クトゥルフ神話TRPG用シナリオ集『ナイルの断章』

はじめに

 2022年10月29日、30日に開催されたゲームマーケット2022秋にて、筆者は、新クトゥルフ神話TRPGシナリオ集『ナイルの断章』を頒布した。
 2022年11月1日には、BOOTHにてPDF版の頒布も開始している。

 このシナリオ集の紹介と、エラッタについて本記事でまとめる。
 記事にはシナリオの核心的なネタバレは書かないが、シナリオのトーンが伝わるように紹介を行う。したがって、シナリオに関して事前に何も得ずにプレイしたい方がこの記事を読むことは非推奨である。


ナイルの断章

『ナイルの断章』は、筆者が代表を務めるサークル「墓荒らしの宴」が制作した新クトゥルフ神話TRPG用の合同シナリオ集だ。舞台をエジプトに限定し、自由な発想で各々が思い描くエジプトを表現してもらった。筆者のエジプト狂いに5名のライターを付き合わせた形だ。(なんて迷惑な。)

 収録シナリオは6本。1920年代を舞台にしたものが4本に、古代を舞台にしたものが2本の構成だ。…現代は?ってか古代?!と感じた方も多いのではないだろうか。本当に尖りに尖ったシナリオ集になってしまった…。と筆者すら驚きを隠せない。それでも驚きとしては序の口で、一番驚くべきは、シナリオ集全体で200ページを超える大ボリュームである点だ。(なんで?)

「1人20〜25ページくらいに収めようね。中〜長編までなら書けるよね!」
企画当初はこんなふうに思っていた。
 蓋を開けてみると、開いた口が塞がらないくらい長いものになっており、最もページの多いシナリオは50ページに迫る勢いだ。
 ただ、それぞれのシナリオに個性があり、筆者のこだわりがあり、面白いシナリオに仕上がっていると感じている。次の章では各シナリオにスポットライトを当てて簡単に紹介しようと思う。

シナリオ

ナイルのアギト

著者:オウルアイ
時代:1923年

 予め用意された探索者(プレロールド探索者)がシナリオに付属しており、新たに探索者を創造を行う必要がないシナリオだ。
 プレロールド探索者はそれぞれ個性豊かで、シナリオに合致したものになっているため、なんの準備をせずとも気軽にセッションに参加できる。

概要
 舞台は1923年のエジプト。若き探検隊のメンバーである探索者たちは、かつてワニ崇拝からクロコディロポリスと呼ばれたファイユーム州へと冒険に向かう。ナイル川流域に存在すると思われるワニ崇拝の遺跡の手がかりを探す探検隊は、現地に潜む神話的勢力と接触し、隠された忌まわしい歴史の真実を発見することになる。

あきもち評
 探検隊として調査に向かう情景は、エジプトロマンそのものであり、非常に趣深いものだろう。探索の自由度(今回はプレイヤーがとれる選択肢の幅を自由度と表現する)が高く、コツコツと調査をしても良いし、大胆に動いても良い。雰囲気を楽しみながら調査を進めることができ、様々なドラマが生まれていくことが想定される。
 海外公式シナリオのような遊び方ができるシナリオになっているので、そういったシナリオを遊びたい人におすすめしたい。



ズルカルナインの七不思議

著者:ホーネット
時代:1920年代(1922年のエジプト王国独立以降)

概要
 1920年代エジプトのアレクサンドリアを舞台に探索者は、アレクサンドリアで見つかったミスカトニック大学の調査員の遺体の対応と調査員の目的を
探ることを命じられる。探索を進めると世界七不思議の一つ「大灯台」の発見と隕石の新現象の解明といった異なる目的が明らかになる。その鍵がアレクサンドリアの地下に眠る古代の水路にあることを知った探索者はクトゥルフ神話のベールに隠された歴史の真実を垣間見ることになる。

あきもち評
 世界七不思議として知られる「アレクサンドリアの大灯台」に焦点を当て、史実をもとにしているシナリオだ。
 作者独自の解釈のもと、クトゥルフ神話の要素を混ぜ込んでいる。
 史実をもとにしたシナリオのため、キーパーにある程度知識があったほうが楽しめるように感じる。全体としては一本道なので、シナリオの構造上迷うようなことはない。それでも資料を工夫し、探索動機が保てるようにゲーム性がしっかり考えられたシナリオである。
 歴史的な背景、オカルト的な背景をしっかりと感じながら回る遊び方が好きな人におすすめだ。


失われた栄光

著者:もっちり葛葉
時代:1920年代

 予め用意された探索者(プレロールド探索者)がシナリオに付属しており、新たに探索者を創造を行う必要がないシナリオだ。
 プレロールド探索者はそれぞれ個性豊かで、シナリオに合致したものになっているため、なんの準備をせずとも気軽にセッションに参加できる。
 もちろん、新しく創造した探索者で挑戦することも可能だ。

概要
 シナリオの流れを簡単に説明すると1920年代のアーカムからエジプトへ渡り、未踏の砂漠の奥地に存在する遺跡を探索して歴史的発見や財宝を手にす
る冒険物である。
 探索者たちはウィリアム・エイヴリーの邸宅で行われるパーティをきっかけに、この冒険に参加することになり、その中で神話的事象に巻き込まれていく。
 探索者はさまざまなNPCや神話生物に翻弄されながらも旅路の果てに、秘宝「太陽神の首飾り」や神格であるアモンやコンスとどのように対するのか
を決めなくてはならない。
 彼らの内のどちらかの信徒になり、片方の敵となるのか。それともどちらの力を借りず探索者たちの機知や行動ですべてを成し遂げるのか。それは探索者が決めなければならない。失われた栄光は誰の手に渡ることになるのか。

あきもち評
 エジプトにおける発掘品を発端に、神話的事象に巻き込まれる冒険的な側面が強いシナリオだ。
 イメージするならば「トートの短剣」に近いだろう。作者は「トートの短剣」へのリスペクトからこのシナリオを着想し、6万文字を超える大ボリュームに仕上げている。
 冒険ものとして非常に楽しく、緊張感があり、プレイヤーは頭を働かせながら難しい判断をしなければならない。唯一難があるとすれば、シナリオの全体像が複雑な点だ。回す際はしっかりと読み込み、先の状況を想定しながらやるとよいだろう。
 複雑さはシナリオが練り込まれている証拠でもあるため、それらを生かして最高のセッションにしてほしい。冒険活劇が好きな人におすすめしたい。


呪われしサルコファガス

著者:Skay
時代:1920年代

概要
 発掘調査隊が調査中に消息を絶った。
 探索者は、友人であるイギリス人考古学者のロバート・ウィルソンから電報を受け取り、新たな調査隊として現場に赴く。探索者は、ソベク神殿で起こった行方不明者についての調査と、古代遺跡の発掘を行うことになる。

あきもち評
 情景描写に富み、1920年代エジプトの首都カイロの雰囲気を十全に感じられるシナリオだ。
 遺跡の発掘が盛んであり、様々な発掘隊がエジプト全土を駆け回っていた。同じ発掘調査でも「ナイルのアギト」とはまた違った冒険になる。
 雰囲気を重視し、エジプトに慣れたい人におすすめだ。


英雄は砂漠の下に眠る

著者:ネシロ
時代:古代

 予め用意された探索者(プレロールド探索者)がシナリオに付属しており、新たに探索者を創造を行う必要がないシナリオだ。
 プレロールド探索者はそれぞれ個性豊かで、シナリオに合致したものになっているため、なんの準備をせずとも気軽にセッションに参加できる。

前編の概要
 舞台は紀元前1480年頃のエジプトのテーベ。この時代は女性のファラオ、ハトシェプストが統治している。
 4月18日の夜。探索者らはムニーブ神官から「英雄王ヴェラーラの首飾り」を入手するように言い渡される。
 日頃から多少の悪事には目をつぶってくれ、また何かと口利きをしてくれるムニーブ神官からの依頼である。断る理由はないだろう。

後編の概要
 舞台は「前編」と同じく紀元前1480年頃のエジプトのテーベ。「前編」からおよそ2ヵ月後である。6月18日の夜、テーベ東岸の酒場「英雄の刃」で、探索者は気狂い病が起こす事件に巻き込まれることになる。
「後編」は「テーベ全域で流行した気狂い病の真相を突き止め、起こりうる災厄を退けること」がシナリオの目的となる。

あきもち評
 エジプト神話に独自の解釈を加え、それを軸にスケールの大きい物語が展開するシナリオだ。
 古代エジプトの雰囲気が想像できるような細かな記述が特徴的であり、多くのNPCと関わりながら徐々に物語に入り込んでいくのがすごく楽しい。
 特徴的なNPCも多く、NPCと遊ぶだけでも楽しめるのではないだろうか。
 古代という独特の舞台、エジプト神話の解釈など、普段触れることのない独創的なシナリオで遊びたい方に強く推薦したい。


幽界よりの神蝕

著者:あきもち
時代:古代

 予め用意された探索者(プレロールド探索者)がシナリオに付属しており、新たに探索者を創造を行う必要がないシナリオだ。
 プレロールド探索者はそれぞれ個性豊かで、シナリオに合致したものになっているため、なんの準備をせずとも気軽にセッションに参加できる。
 もちろん、新しく創造した探索者で挑戦することも可能だ。

概要
 第19王朝はエジプトが最も栄えた時代として知られている。この時代のファラオでとりわけ有名なのはラメセス2世(ギリシャ語名:オジマンディアス)だ。
 探索者はファラオ・ラメセス2世の統治時代において発生した事件について調べ、暗躍する教団の正体を探りながら、エジプト神話の一端に触れることとなる。探索者は事件の真相を暴き、解決に導かなければならない。

あきもち評
 エジプト神話とクトゥルフ神話の融合を試みた挑戦的なシナリオだ。
 物語は大味な展開ながらも、古代エジプトでの探索が楽しめるシナリオであり、プレイヤーの自由度も高い。
 イベントも多く、退屈はしないのではないだろうか。


エラッタ情報

Ver 1.0

①文章抜け
P.78 ページ末〜P.79ページ頭


そしてしどろもどろになりなが
行使し、起死回生を狙ってくる。


そしてしどろもどろになりながら、探索者の1人に《支配》の呪文を行使し、起死回生を狙ってくる。

Ver 1.1

②脱字
P.105ページ末


発掘期間がぎたことにより


発掘期間がぎたことにより


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