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大人になった、と感じた日

  ふと自分は大人になったと実感した時、とにかく嬉しかった。


  二十歳になった時、自分が大人になったとは感じなかった。成人式に出ても自分が大人なんだとは感じなかった。所詮学生なんだ。
  ただ、二十歳になった翌年の3月、たったひと時の間だけ私は大人になった、と感じた。

  私が二十歳になった年、韓国に留学することになった。初めての海外生活、初めての一人暮らし、いや正確にはルームメイトとの共同生活だった。しかし、半年が過ぎたあたりで留学を中断せざるを得ない状況になった。理由は御察しのとおり新型コロナウイルスだ。

  そして、日本便が無くなる前日、3月8日に帰国することになったのだが、その数日前に中国人の女性と会うことになった。彼女は2ヶ月ほど前に語学堂でできた仲の良い友達で、帰国を伝えたところ、ご飯に誘ってくれた。確か夜7時頃に会う約束をしていたのだが、彼女は学校で進路相談などがあって遅れることになり、結局夜10時頃に会った。さて、何処に食べに行こうかという話になったが、もう夜10時なので普通の飲食店は開いてなかった。すると、彼女は「ハンバーガーが食べたい」と言い出し、「こっち」と言って歩いて行った。そしてマクドナルドに着いた時、えっ最後にマック?と思ったが、久しぶりだったのでそれはそれでよかった。
  私たちは窓際の横並びの席に座った。食べなからいろいろな話をしたが、私たち以外に客はいなかったので、とても静かに感じた。
その日からもう1年以上経っており、たくさん話したのに、何を話したか次第に記憶が消えていっている。
  ただ、自分たちの将来のことや進路のこと、自分の境遇のことを話したのはまだ覚えている。その当時、私も彼女も進路や将来のことで非常に悩んでいた。彼女は、韓国の大学に通うために語学堂に通っていた。実は、そういう中国人学生は沢山いて、その方が何かと都合が良い場合もあるのだろう。
  この時彼女は21歳で、語学堂に通い、さらに大学にも通うとすれば、働き始める頃には25~26歳だ。進学を決めた今の私であれば、私も同じだって言えるが、やはり不安になるだろう。23歳にはたいていの人が働いているのに、私は何をやっているのだろうと。一方私も、自分の進むべき道を決めかねていた。留学だって終わるのに私は何を学んできたんだろうと何度も考えた。だが、彼女はその日の進路相談やら何かで、ある学院への進学が決まったそうだ。彼女は正直、しっかり者っていうよりちょっとおちゃらけた人だと思っていた。だが、自分の将来をしっかり考えていて、1人で韓国までやって来た。尊敬するなあ、大人だなって思った。
  会話が一瞬止まった時、ふと目の前の大きな窓ガラスに私たちの姿が写っているのに気づいた。その時、服装の影響もあってか、「あっ、大人になったんだ」と思った。これは偏見だが、ロングコートは大人のアイテムだ。それを着ている2人が凄く大人に見えた。さらに、私たちが外の人から見ても大人に見えるのか気になったからだろうか、恐らく想像だっただろうが、マックの前の道路の反対側から、客観的に自分たちを見ている感覚がした。ソウルの寒空の下、店内がぼわっと光る中、2人の大人が座っていたように見えた。それくらいに嬉しかった。私は、異国の地で生きているんだと感じながら、会話はその後も続いて行った。


  どれだけ一般的なことなのかよく分からないが、私はいつも早く大人になりたいと思っていた。中学生になった時、「小学生に戻りたい」と言っているのを時々耳にした。また、高校生になった時は、「中学生に戻りたい」と言い、大学生になったら「高校生に戻りたい」と言う。大人が「学生時代に戻りたい」と言うのもよく聞く。確かに最後のは共感するようになると思うが、私は逆に、早く中学生になりたい、早く高校生に、大学生になりたい、早く大人になりたいと思っていた。
  まあ元々強い何か信念とかがあったわけではない。最初は、何かと人間関係で失敗することが多く、早く新しい環境が欲しい、自分を知らない環境へ行きたいという気持ちがあった。そして、いつからか家に居る時間が苦痛になる時期があり、経済的にも精神的にも早く自立したいと思うようになった。

  今はまた、ただの学生だ。ちょっと虚しい。

  私の友人の多くはもうすぐ働き始めるが、働き始めて一人暮らしをするようになった時、皆は大人になったことを実感するのだろうか、それが良いことかどうかは別として。


非常に拙い文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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