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名古屋弁でガスマスクの男

我が家には、小さめの書庫がある。
そこには家族が集めた書籍が一堂に会し、地方史文献やら、母祖母の趣味にまつわるあれこれやら、誰が集めたのか巻数が飛び飛びの漫画が置いてある。
私はそこから漫画を拝借しては、布団の中に持って入って読んでいた。

中でも私がよく読んだ漫画は、二作品ある。
一つ目は『キン肉マン』、そしてもう一つが、『Dr.スランプ』だった。
この二作は故姉が読んでいたもので、キン肉マンは12巻までしかない。

Dr.スランプは、天才科学者・則巻千兵衛がアンドロイドのアラレちゃんを作るところから始まる、SFちっくなコメディであることは、もはや周知の事実であろう。
最初は背の高いスタイリッシュな眼鏡っ子だったが、回を経るごとに、どんどん小さく、かつアホっぽくなっていくのがとにかく可愛い。
のぐそをつつくシーンや、「きーん」といいながらマッハで走る姿、一瞬で車を破壊する様子など、ずっとわけわからん最強感を感じるところがよい。

いいキャラもものすごく多い。
メインのがっちゃん、アカネちゃんや山吹先生以外に、
頭がとんでもなくデカい栗の形をした栗頭先生
足の裏に耳があるニコちゃん大玉……もとい、ニコちゃん大王
ピンチの時に現れる、梅干し食べてスッパマン
「はっきりいってイモね」が口癖の皿田キノコ
鳥山先生の敵であるドクターマシリト(編集担当・鳥島氏)
マシリト作アンドロイドで、アラレちゃんに恋をしたおぼっちゃまんくん
ほぼヤムチャのツンツクツンくん他、摘(ツン)さん一家
など、絶対に混じり合わない個性のぶつかり合いを、アラレちゃんの化け物パワーで取りまとめてしまうというとんでもない漫画だ。
ちなみに、ツンさん家の全員の名前は覚えやすいので是非覚えてほしい。父ツンツルテン、妹ツンツルリン、母ツンツンツノダノテイユウゴウ(漫画版)だ。
母の名前の元ネタは、愛知県小牧市に存在した自転車製造販売メーカー株式会社ツノダが作った、テーユー(T.U)号というどえらいナウい自転車からとっており、千兵衛に「自転車みたいなお名前ですね」と突っ込まれている。
全18巻である。お読みいただきたい。

巻末や作中には、時々鳥山先生が登場する。ガスマスクをつけており、編集の鳥島さんに「ぼつ」と言われている絵が印象的だ。
私は鳥山明先生のことを詳しく知りはしないけれど、彼が清洲の人間だということは知っている。飛行機便で原稿を送ったりしていたようだが、小牧空港だっただろうか、などと想像する。
私は名古屋生まれ名古屋育ちで、父方の親族はみなこってり名古屋弁を使っとったもんで、鳥山先生の名古屋弁は、どえりゃー親近感がうゃーたもんだった。
ニコちゃん大玉……もとい、ニコちゃん大王の名古屋弁も、鳥山先生のルーツを感じるこってり名古屋弁で、「おみゃー」だの「わかっとるがや」だの、おんなじネイティブ言語を嗜む身として、とても耳馴染みのよい言葉だった。

鳥山明先生の絵は唯一無二で、本当に繊細な技術者だったと思う。
先生の描くバイクや自動車は、本当に細かく行き届いた描写で、何時間でも見れてしまう。いうまでもなく、キャラクターデザインも秀逸だ。
残念ながらドラゴンボールは全く追えていないが、それでも、クリリンとチャオズが何回もよみがえり、フリーザの戦闘力が53万で、ベジータがツンデレであることは、一万円札が福沢諭吉であることと同じくらい知っている。

ゆでたまご先生が鳥山明先生の訃報にコメントした時、私は、クリティカルヒット世代ではないにも関わらず、胸が熱くなった。どちらの先生の作品も大好きで、私を育ててくれた漫画だ。漫画家という過酷な環境で、お互いしのぎを削りながら切磋琢磨したコメディは、いつまでも私の心の中にいる。

一読者の感想をつらつら述べてしまったが、要するに、悲しい。
めちゃくちゃなファンなわけでも、親戚でも友人でも、なんなら同世代でもない私が、こんなに捲し立てるのもおこがましいけれども、私にとって彼の作品は、姉と共有できる数少ないものだったから、特別な思い入れがあった。
それと、ここに一つ懺悔したいことがある。
漫画の絵が良すぎたせいで、クソガキの私が色鉛筆で色を塗ってしまったページがある。いまだに後悔している。すみませんでした。

改めて、鳥山明先生に、哀悼の意を表します。
願わくば、向こうでも漫画を描いていただけますよう。

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