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暗箱

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#春

開花

眩い光が射す舗道を見下ろす コーヒー屋の窓際の席 アメリカンを啜りながら 希望のない世界は嫌だと 耳元で ラジオのパーソナリティが囁くのを 聴く 指先は iPhoneのニュースソースを彷徨いながら すべてを断ち切らないようにして 今日の天気は晴れ おそろしいほどの快晴 自動ドアが開くたび フェイクの観葉植物が揺れ 眩い光に触れ 埃が舞い上がる 見慣れ過ぎてもう 何の感情も沸かない プラスチックのトレイ マグカップ 皿の上には食べかけの ミラノサンド 齧るたび崩れ落ちるが いつ

詩「春の川」

一台 また一台を見送って あれが最後の一台のはずだと 道を渡るところまでは覚えていて 後のことは覚えていない 今となっては それさえも記憶違いのように 日々はあって 水面に映る影を覗き込むと 見覚えがあるようで 知らない街が見える 朽ちた実がやがて 路上で枯れ果て 雪で染められても まっさらにはなれなくて 春の路上に 立っているのは 雪とともに解けた 何ものか 文字をなぞって はじめて知るように思い出す この川を渡った人の 目が浮かぶ その目を借りて 見上げた空に 鳥