やっぱり君は会社員に向いていなかったよ

リクルートスーツが延々と続くスペースをかきわけかきわけ、どこまで行っても同じような風景が続き「これはエッシャーのだまし絵の中にでも迷い込んだか?」という疑惑が湧き上がるような就活の合同企業説明会。

「あなたのことを一言で表してください」「あなたにキャッチフレーズをつけてください」就活でよくありそうなそんなお題が出るたびに僕は「キャリア11年のベテランニート」と答えていた。

自分史のミステリーハンターが僕の人生を何度か往復した結果、もっとも耳目を集める、つまりキャチーな肩書きはそれだと判断したのだ。実際僕は小学校2年生から不登校で大学も4浪で入り、二十代半ばにしてニート期間は累計11年という、自分で言うのもなんだがベテランの部類になっていた。

そのキャッチフレーズは実際よくウケた。面接で出会った人の多くはこのフレーズに笑いを持って受け取ってくれた。僕がベンチャー系の会社ばっかり見て回っていたからと言うのもあるだろう。それでも、曲がりなりにも経営者や人事担当者から好感触を得て、さらにさらにあまり苦労せずに2つまで内定を得てしまった。

僕は日本の義務教育が9年間あるうち、7年以上を受けていない。その期間は学校に行かずに街の図書館で本ばかり読んでいた。

なんとなく自分でわかっていた。「俺は会社員に向いていないんじゃないだろうか?」そういった疑問はいつも頭のすみっこに転がり、たまに思考の小指をぶつけては痛みで片足ケンケンのダンスを繰り広げていた。

しかし大学4年生の僕は言う。「もう昔とは違う。単位は危なげなく取得し、卒業も安全圏。バイトもしてるしサークル活動だって人並みかそれ以上にはしてきた。もう大丈夫なはずだ。イケてる企業に入り、イケてる社会人としてイケてる人生のレールに乗っていけるはずだ。かつての過去はむしろこれからの栄光を輝かせる後光となり、古き風習の破壊者として新しき時代の創造者として、その確固たるバックボーンを支える物語の一部になるはずだ」

そう行って僕は意気揚々と、内定をもらったベンチャー企業に就職した。

結論から言おう。僕は会社員に向いていなかった。

就職先の悪口は一切言うつもりはない。どんなに贔屓目で見てもあの会社はとても懐が広く働きやすい職場だった。僕のような、スネに致命傷クラスの古傷が走り、歩くたびに血しぶきが撒き散らされる人材をよくもまあ新卒で迎え入れてくれたものだと思う。

それでも会社というシステムは僕には合わなかった。

上司への報告、同僚との協調、後輩への気遣い、人間関係の気配り、信頼の構築、キーマンへの根回し、コンセンサスの形成、言葉遣い、マナー、そういったものがことごとく僕に『苦手』の赤ハンコを推し続けた。それに対する僕の感覚は常に「知らねーよ!好きにさせろや!」であった。

というわけで1年と半年ほどで会社をやめて今はウーバーイーツとアルバイトでなんとか暮らしている状態だ。1つだけ言えるのは、今の方が「幸福度は完全に上」ということ。呼吸器に詰まった何かが溶けて消えたかのように、あの頃よりずっと息がラクに吸える。

社会人一年目の自分へ。
会社員は向いてなかったけど、それがわかっただけ無駄じゃなかったと思ってるよ。



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