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キャンプ女子被害の怖さと本質。

梅雨の真っただ中ですが、今年は中休みも多そうで、週末のなかなかの好天が続いています。あまり空梅雨になってしまうと、それはそれで水不足が心配になりますが、一日半袖でいられる陽気になってきましたし、アウトドアを楽しむには絶好の季節ですね。

今は山登りやキャンプや魚釣りなど、昔なら男性ばかりというイメージが強かったレジャーやイベントにも、女性がひとりで楽しむ喜びを見出すのが当たり前の時代です。もちろん、男女問わずひとりで行動するにはそれなりの危機管理が求められますし、女性であればまた常に危険と向き合う覚悟が必要ですが、従来のように「女性ひとり=タブー」という社会通念がようやく解放されつつある流れ自体は、歓迎すべきことだと思います。

昔であれば、ひとりキャンプ、ひとり登山どころか、女性がひとりで夜の飲食を楽しんだり、レンタカーを借りて日帰り旅行に繰り出すことすら、家族はもちろん社会的にも思いとどまることが求められる機会が多かったものですが、今は「ひとり○○」が必ずしも孤独とか孤立を意味するものではなく、都会の喧騒や日々の人間関係のしがらみを離れてひとり自由気ままな時間を過ごすことがメンタル的にもプラスだと受け止められる時代ですから、男性がひとりで楽しめる出来事を、女性も同じように楽しむのはむしろ普通だといえるでしょう。



ところが、そうはいっても、女性のひとり行動には男性にはない危険が襲うのも常であり、ましてやいつ誰が不意に訪れるかもしれない屋外で仮設テントを張って一夜を過ごすようなキャンプは、あまりにも危険と隣り合わせの行為だといえるでしょう。昨今もソロキャンプ中の女性の被害が深刻化していることが問題とされ、特に若い女性をターゲットとして悪質なナンパ被害が相次いでおり、専門家団体なども各方面に警鐘を鳴らしています。

明らかに消灯して就寝している時間にテントをたたいて声をかけたり、本人がはっきりと拒否の意思を示しているのに執拗に連絡先などを交換したがったり、友達や家族と一緒だと話したことが嘘だと分かると突然態度を豹変させて横柄な行動をとるようなことは、いずれも悪質なプライバシーの侵害に該当し、民事上の不法行為による損害賠償はもちろん、軽犯罪法・迷惑防止条例違反や刑法上の脅迫罪・強要罪に問われる可能性もあるため、決して看過されるものでないのはいうまでもありません。

でも、そんなことはいうまでもなく社会人の常識なはずなのに、なぜ悪質ともいえるナンパ被害がなくなることはなく、むしろ古典的な手法による悪意のある行為がエスカレートしているのでしょうか。旅先でつい気持ちが緩んでしまったり、大自然の中で思わず心のタガが外れてしまったり、アルコールが入ることでリラックスしすぎてしまったりといったこともあるでしょうが、根本的な問題は相手が「ひとり女性」だからという構図に対する思い込みや偏見なのだと思います。



一般的に女性よりも男性の方が体格がよくて体力があるのが当たり前ですから、たとえひとりでなくても女性は男性が近づいてきたら警戒心や恐怖を覚えるものですが、それがたったひとりでキャンプをしていたとなれば、まず日常は感じないレベルのこわさを感じるのは当然です。でも、女性でも体格や体力に恵まれた人はいますし、今はさまざまなツールで護身を試みたり、スマホでタイムリーに助けを求めることできますから、状況にもよるとはいうものの、場合によって対応の余地はあるといえるかもしれません。

それ以上に問題なのは、ずばり「男性は〇〇」、「女性は〇〇」という世の中のカルチャーです。「女性がひとりで〇〇するのはいけない」という信じられれないような文化が、今でも地方に行けばまだまだ残っています。都市部でも年齢層が高い男性の中にはそんな価値観の人も少なくないので、やはり女性としては二の足を踏んでしまいます。たまに登山で遭難者が出たニュースなどで「登山者は女性ひとりだった」と報じられると、なぜだか男性のとき以上に「女性なのに」という偏見にさらされるとしたら、とても男女平等の時代とはいえないでしょう。

男性が女性に関心を持つのは当たり前とか、若くてきれいな女性がいたらほっていてはいけないとか、男たるもの好意を持つ女性には潔く行動すべき、といった社会をめぐるカルチャーも、それ自体は必ずしも悪だとはいえないとはいえ、行き過ぎるとやはり女性にとって不利益な結果をもたらすことになります。ひとりキャンプというある種の極限状況において、あいさつをしたり、ひとこと声を掛けたりするのはいいにしても、それ以上のアプローチをしようとするのは、あまりにも相手への誠意や常識を欠く偏った行動だといわざるをえないでしょう。



いまどきの若い男性は女性との距離の取り方が下手くそだといいますが、それは何も若者にかぎらないのかもしれません。人間が相手に好意を抱くのは自由であり、人間として誠実に向き合うことで、お互いの健全な愛情に結びつくことはありますが、ここまでひとりキャンプにおける問題がクローズアップされる背景は、そのシチュエーションのせいにして、まったく相手に対する敬意や誠実な関心を欠く中で、あたかも男性が優位で女性が劣後する存在であるかのような心境をバックボーンに行動しているからではないでしょうか。

男女平等が当たり前で、男性も女性も協力しあいながら仕事に家事に育児に向き合う時代。立場を入れ替えて考えたら、あえて自然の中でひとり時間を過ごしたいからキャンプをしているときに、いきなり他人があらわれて執拗に声がけされたら迷惑のかぎりでしょうし、それが自分よりもはるかに体格も体力も大きな存在だったとしたら、あたかも山の中で突然クマに遭遇したかのような危機感を覚えるのは当然です。今の時代の常識と良識をもって、すべての人がジェンダーを超えて、他人に対する正しい向き合いをしていきたいものです。


学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。