人生に影響を与えた絵画1選
noteを始める前、自分を表現できる手段の一つとしてなんとなく絵を描こうと思い、100均のスケッチブックと鉛筆を物置から引っ張り出して画用紙と対峙した。
が、しかしまじで手が動かん。描くという行為自体が久しぶりだから当たり前の反応なのではあるが、こんなにも絵というものが描けないことに自分で驚いた。まだ小学生の頃のほうが自由帳に似顔絵なりドラえもんなり何かしら描いて満足げにしていた気がする。
このままではいかんと焦るのと同時に学生時代の美術の時間を思い出した。
中学2年の夏休みの宿題として、ボールペン縛りの作品提出があった。描く対象に困った私はそのころハマっていたアコースティックギターを画用紙いっぱいにまねて描いた。細かく陰影を付けて遠目から見ればモノトーンのギターがほんのりと浮き出て見えるくらいには書き込んで仕上げた。
結構うまく描けたんじゃないかとまんざらでもなく、その宿題を美術の先生に見せたときも悪くない反応だった。実際、県か市の美術に関するコンクールに学校代表の一人として選んでもらい佳作ではあったが小さな賞状をもらった。
ふと、代表として選ばれた同級生の作品がほかにもあるんだよねと思い、先生が誰を選んだのか尋ねたところ、その同級生というのは美術に入れ込んでいるようには見えない無口で穏やかな男の子だった。意外だなーなんて思いながら見せてもらった作品に私は心奪われた。
そこには英文字の羅列が揺らぐ深海で雄大なクジラ二頭が海面へと昇っていく姿が描かれていた。ボールペンは黒字のみのはずだし書き込めば書き込むほど黒の主張が激しくなるはず。だけど画用紙に空白の部分など一ミリも残っていない程しぶとく丁寧に書き込まれた黒は、重く深く息が詰まるほど凛とした藍色の海へと変化していた。あぁ、美術ってこういうことかと腑に落ちたのと同時に、まねることしかできなかった自分のちっぽけさを嚙み締めた。
彼には自分だけの世界がある。表現する術も持っている。彼が穏やかに微笑んでいるその間にも静かな情熱を内に秘めているのだ。勝手な解釈ではあったがなんてかっこいいんだちくしょうと叫びたくなった。
結局、彼の作品がコンクールでどう評価されたのか知らない。だけど、ここにまねることの脆さを教わった人間がいることを、モナ・リザなんかよりあなたの絵がわたしの心にずっととどまり続けているのだと伝えたい。
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