長男と星を見た日

私には今3人の子どもがいる。子どもというのはこんなにも純粋な存在で、また子育てとはこんなにも喜びと反省の連続なのかと思わされる。

中でも長子はいつも子育ての「最初」を経験させてくれる存在である。私の場合長男がいてくれたからこそ、その後に続く次男と三男の子育てはだいぶ気が楽になった。しかし「最初」はいつも手探りで不安なものである。私は長男との思い出の中で、今でも忘れられない出来事がある。

次男が生まれた時、長男は4歳だった。妊娠が分かった直後から、長男の癇癪や甘えがひどくなった。夫以外に妊娠した事は伝えていなかったのだが、子どもながらに何かを感じとっていたのかもしれない。それまで保育園で出来ていたことを一切しなくなり、毎朝私の足にしがみついて「帰りたい、おかあさんと一緒にいたい」と園の門の前で泣く日々が続いた。

産む前からこれだと出産後はもっと大変なんだろうな、と覚悟をしていたが、実際産まれてみるとまだまだ甘える部分はあるものの、それ以上に次男を可愛がってくれる長男の姿があった。保育園でやらなかった朝の支度や製作活動も、今までどおりできるようになった。

「なんだ、案外上手くやっていけるのかもしれない」とその時の私は考えていた。

次男が生まれて半年ほど経つと、私が夜次男の寝かしつけをしている間、長男は窓から外を見るようになった。一緒に寝ようよ、と誘っても「ううん」と言って窓の方へ行き、カーテンを頭からかぶるような格好で部屋の小窓からじーっと空を見上げているのだ。
だいたい15分ほどして次男が寝ると「おかあさん、今日はあそこと、そこにも星がでているよ」と指差して教えてくれる。それを2人で見て、少し話をしてから寝るようになった。

星空探しは曇りや雨の日でも続いた。「今日は星も見えないし一緒に寝ようよ」と言っても「いいの」と言って寒いだろうに外気の漏れる窓の方へ行き、いつものようにカーテンをかぶって静かに外を見ているのである。

そんな日は決まって次男が寝たあとに「おかあさん、いっしょに星をさがして」と言われた。曇って何も見えない空を見上げ「さむーい」と小声で叫んで、2人で顔を見合わせて笑った。

何がきっかけかは分からないが、しばらくすると徐々に長男が外を見る機会は減っていき次男と一緒に布団に入るようになった。そして数ヶ月後には窓の方に行く事もなくなってしまった。

多くの育児書や先輩ママたちの言うように、2人目が生まれても長男を優先すると決めていた。多少次男が泣いても長男のやりたいこと、言うことは優先してきたし、毎日「大好きだよ」「長男くんが大事だよ」と伝えて抱きしめた。

長男は嬉しそうに「ぼくも」と返してくれた。これで私は長男の気持ちを満たしてやれたと思っていた。しかしそれは、やはり次男が産まれるまで独占できていた私の姿ではなかったのかもしれない。

自分の思い通りにならないことや我慢することが増えていたあの時期、1日のうちで私と2人きりになれる時間が夜しかなかったあの時、長男がどんな気持ちで星を数え私が声をかけるのをじっと待っていたのか、小さいながらに沢山の不安や葛藤があったのかと思うと、今でもどうしようもなく胸が痛んでしまうのだ。

今年7歳になる長男にこの当時のことを聞いても本人は全く覚えていない。

ただ私は「おかあさん、いっしょに探そう」と呼んでくれたあの日の小さな声を、2人で星空を見たあの日のことが今でも忘れられない。

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